line




「ンマー!!今日と言う今日は絶対許せねェ!あったまきた!!!」

小さい頃の夢を、見ている。

はは、ちっちぇえな、アイスバーグ。

「バーカバーカバカバーグッ!!」


もっとちいせぇなー、ガキのおれ。


なんで喧嘩したかなんて、思い出せるワケがない。そうして無かった日の方が、少ねぇからな。

ああ、何してんだおれは?

夢の中のおれは、廃船の瓦礫から拾った木の枝で、砂浜にピィーっと線を引いた。

アイスバーグとおれの間だ。

「何してんだお前は?!」

「こっからこっちに入ってくんな!!もう入って来れねーからなッ!!どうだ!!」

はは、本当ガキの考える事だ。

素直じゃなかったなあ、おれは。

構って欲しくて騒いで、なんでもいいから気を引きたくて、怒らせてよ。

「バカはテメェだ、バカンキー」

アイスバーグが、珍しく得意そうな顔をしている。


「こんなもん、簡単なんだよ」


そしてアイスバーグはガキのおれに近づいていって――。







「おい、またお前腹出して寝てんじゃねーか」

バサ、と自分に掛けられた薄い布の感触に、目を覚ます。

市長の顔を脱いだアイスバーグが、おれを見下ろしている。


「――珍しいじゃねェの、お前が夜中に起きるなんてよ」

「…お前の寝言で起こされたんだ、バカンキー」

「悪い悪い、なんつってた?」

「――、こっちに来るな、もう入って来れないからな…ってな」


そう言った時のアイスバーグの表情が憂いて見えて、心臓がぎゅう、っとなる。

んな顔すんなよ。あんだけ毎日大嫌いだなんだ言ってるくせに。

手を伸ばし、乱れた髪をぐしゃぐしゃと撫でる。

「何しやがる…っ」

「それでもお前、入ってきたじゃねーの」

「…?」



夢の中でお前は、おれの引いた線を、裸足でぐいぐいと踏んで消していった。

おれはなんだか、ムショウに嬉しくなって。

アイスバーグに抱きついていた。



なあ、アイスバーグ。


今度はお前が、線を引いてんだな。

おれが砂地に描いたそれと違って、お前の引いたそれは。

足じゃ、消せねーんだ。


お前の中で、おれとお前は今、どれくらいの距離で立ってんだ?

お前の引いた線は、完全におれとお前を、分け隔てちまってんのか?


「フランキー?」


掛けられた布をバサッと広げ、アイスバーグごと抱きしめる。

「うおッ――!?」


消す事ができねえ線なら。


「飛び越えてやるよ、そんなもん」

それが空まで続いてるってんなら。


「壊してやるよ、そんなもん」


「お前、何言ってんだ…っ離せバカンキッ…!!」







「離さねーよ、絶対」




おれとお前の間に、線なんか、いらねえ。







END