『オーダーストップ』







「おう、なんだバカバーグ、奇遇じゃねえの?」

W7に、レストランは少ない。大概が新鮮な材料を皆が買って調理するからだ、とおれは想っている。

「なあなあ、今夜はヒマなんだろ? だったら久しぶりに秘密基地来いよ。ここ半月、お前全然顔出さねえじゃねえの」

うるさい。
「なあ、聞いてんのかよアイスバーグ!オイ!!」
ンマー!!!!

「うるせえバカンキーが!! 見てわからねえのか!?おれは今書類整理中だ!!」

おれはテーブルの上に広げた白い紙を、さっきから勝手に向かいの席に座った、元・弟弟子に向かって罵声を浴びせかけた。

―― しまった !!!!???
「アイスバーグぅ ここ、レストランだぜ、マナーがなってねえなぁ?」

まわりがざわついている。 くそ!!! ニヤニヤ笑ってんじゃねえバカンキー!!!

(こいつといると、調子を狂わされる――)

「…てめーがマナーを語るんじゃねえ…よ!! 」
「だってお前ぜんっぜん構ってくんねえじゃねえかー。 さすがの俺様も拗ねたくもなるってもんよ」
「拗ねんな。可愛くねえ」
「…いいじゃねえか。 久しぶりに、な?」

この、甘えたような声と顔に弱いなんて、誰にも言えやしねえ。

腐っても弟弟子。 ああ、可愛いと思っているさ、おれの中ではいつまでたっても。 昔のままだからな。


――面影さえ、ほとんど残ってやしねえが。

「まだ、デザートがきてねえ。 それからスープも残って」
「 おれもデザート食ってねえ」
「? 頼んだのか…」

「アイスバーグ、食ってね――」
「黙れ…!!!!(怒りMAX)」
「アウ!冗談だっての〜、怒るなって、皺増えるぜぇ?」
「…コノヤロウ!!」
「嘘だって。 こんなキレーなまんまだもんな。お前」


頬に触れながら、フランキーはまた、嬉しそうに笑った。
――変わらない。 おれに触れる指先は、ずいぶんとでかくなったが。

撫で方も。そのまま髪に触れてくるクセも。

「――、そーいう台詞は、女を口説く時に使え」
「…そーいう台詞は、アイスバーグにだけ使うの、おれは☆」
(いつもいつも。 お前はそんなコトばかりだな)

「いいから。座っていろ。 これを終わらせなければ。カリファにどやされる」
「ああ、あの秘書、怒ると見境ねえもんな」

「――ふ、まったくだな…」

いつもいつも。 おれは。そんなお前の接し方が、嬉しくてしょうがねえんだ。

―― なあ、フランキー。

いつまで、お前はおれの前にいるつもりなんだ ?







「お客さま」
しばらくして。
ウエイターがヒトコト、声をかけてきた。

「オーダーストップです。 あと30分で閉店でございますので、ご了承くださいませ^^」

…ンマー、やられた。

「だってよ? じゃあ、先に帰ってるからよ。社長さん」


空色リーゼントのチンピラはおれの髪を一度撫でると、レストランの扉を片手で開けた。



せめて、ギリギリまでこのイスに腰掛けていよう。
そして最後のスープを一口、嚥下すると。

おれは席を立ち上がり、ウエイターにヒトコト、声をかけた。

「明日は何時開店だ?」

寡黙なウエイターは答える。
「明日は臨時休業となっております。 アイスバーグさん」

くすり、と笑うと、申し訳ありません、と頭を下げた。

くそ、顔が赤くなる。 丸聞こえだったからな。

「プロなら、どんな客でも笑うんじゃもんじゃねえ」
「――はい、畏まりました、市長。 それでは、会計の方よろしいでしょうか?」


時計の針は、0時を回っていた。



「ンマー、悪いな。 …美味い店だ、またくる」



せめての謝礼にと、多めにチップを差し出せば、首を振る従業員達。

「どうした? いいんだ、迷惑料として――」


中にいたウエイトレスが、ぺこり、と頭を下げてくる。

「いいえ、市長…むしろ、お客様は喜んでらしたもの。 また、おいでくださいませ…」

「ンマー、そうか…」


見世物パンダにでもなった気分だナァ。

おれは一度髪を掻くと、キイ、とドアを開けた。

さて、会社に戻るか自宅に戻るか――。


『先に帰ってるからよ、社長さん』

ンマー。


明日は昼出勤だからな。



足は、トムズワーカーズへ向かっていた。

星空が眩しい。
これと同じものを、アイツも先刻見たのだろうか?

「いつまで、続くんだろうな…この平穏は」


そして今日もきっと、おれは。







END