『おれはな、夜が怖いんだよ』

あまりにもルッチがらしくない事を言って、オレに視線を合わせたから。
なんだか胸のあたりがぎゅっと苦しくなって、そのまま見つめ返す事しかできなかった。



『月夜に吼えるはキミの声』



仕事が終わるとルッチは、すぐに一人でいなくなる。
飛べるカクよりも早く現場からいなくなるのを、オレは知ってる。

最近は…オレやルルやタイルストンが飲みに誘うから、少しはいたんだけど。

まるで最初からいなかったかのように。
今日はお前の姿を見失った。


なんでこんな時に、寂しくなるのかを、オレは知らない。
「なあルッチ、おまえいつもどこに行ってんだ、すぐに家に帰ってんのか?」

聞いても話をはぐらかすルッチが、オレにはよくわかんねえ…だけど。

カクに比べれば…ルッチの事をわかってきたつもりだ。
一応、仲間だし、そのなんつうか。

なんでこんな時に、ルッチに会いたくなるのかを、オレは知らない。


「そりゃ、恋ってヤツじゃろ。やったなパウリー、パチパチパ…」
「ってうあああ!!! か、カク…お前いつのまにいたのかよ!?」
「一人でドッグの隅っこでブツブツ言っとったから、なにか悪いものでも食べたのかと思ってのお」

ワハハ、っとカクは笑うと、そっとオレに耳を貸せと言ってきた。
「恋する青年にちょっとした情報じゃ。 いつもお前さんが昇っている屋根あるじゃろ、そこから振り向いてみい」
「…つうかなんだよソレ!!オレ、別にルッ……、(否定はできねえけど)」


最近は……、オレはルッチのことばかり考えてる。

カクたちが来る前から、オレの日課になってた、屋根の上でたまに寝ながら星を見ること。

小さい頃から、夜は寂しかったから、星と一緒に寝てたんだ。

オレはきっと、まだガキのままだから。




ちょっと尺に触るんだけど、一応カクの言うとおりにしてみた。
別にトクベツ風景がいいとか星空が見やすいとか言うワケじゃない、オレのお気に入りの場所。

夜の丁度12時くらいに、オレはそこに昇る。

振り向くとそこに――ルッチがいた。


「…ルッチ」

『ようやく気付いたッポー』

「いつからお前いたんだ、なんだよ、いるならいるで…」

『夜空にまるで、吼えるみてえにしている野良犬を見るのが、面白くてな』

なんでかな、ルッチがいつもと違うように見える。

「なあ、オレ、最近お前の事ばっか考えてんだ、…なんでだろ。考えてくと、頭んナカ、ぐるぐるしてよ、わかんね」

手を伸ばしても。触れても、ルッチは嫌がらなかった。
表情はいつもと一緒、なんで感情が顔に現れねえのかな。

『この街が好きか、パウリー』
「? 当たり前だろ…昔っから…この街だけがオレの居場所だから」
『…そうか。』


なんでだよルッチ、なんでそんな寂しそうな顔、すんだ?
いつも無表情で、オレが何したって、殴り合いしたって、変わらないクセに、
どんなにオレが感情をぶつけたって、…なんも返してくんねえ、オレに興味がないみてえに。

――それが、きっとオレにはすげー、さみしかったんだ。
「ルッチ…?」

黒髪が揺れて、左肩に、熱と、左頬に、くすぐったいような感触。
「どうした、んだよ…?」

一瞬でルッチは離れたけど、

何を考えているのか知りたくて、オレ自身が、ルッチに対して何を考えているのかが知りたくて…。

もどかしくて。 でも、一緒にいれる時間が、オレにはとても大切で。
この時間を壊したくはない。




『おれはな、夜が怖いんだよ』

あまりにもルッチがらしくない事を言って、オレに視線を合わせたから。
なんだか胸のあたりがぎゅっと苦しくなって、そのまま見つめ返す事しかできなかった。


「なんかソレ、オレがここにいる理由と似てるな」

(「そりゃ、恋ってヤツじゃろ。」)


カクが言ったとおりなのかも、しんねえ。

でもただ今は。


少しでもこの時間が続いて欲しい気がする。
『じゃあ、隣を空けろ』


「おお、いーよ」

少しだけルッチが笑った気がした。
夜だから、よく見えねえけど。



きっと綺麗に、笑ってんだ。





END