世界一大事なあなたに。

世界一美しい星空を贈ろう。




『wish of the magician』




「今夜は何十年に一度かの、綺麗な星空と流星群が見れるそうよ」

仕事帰りに、カリファがそう言った。
「ほお。それは、楽しみじゃの」


じゃから、今宵はアンタの部屋の窓をノックして。

暗闇の中、どこかの映画のように絨毯はないが。
アンタを抱いて飛ぼう。





ガレーラ本社の屋上は、誰も来ない絶好のスポット。
じゃと、教えてくれたのはブルーノじゃった。
パウリーは早ね早起きじゃから、来ないのも、ラッキーじゃ。

隣に座るアイスバーグさんは、持ってきた毛布に包まって。
「ンマー、なあカク、寒くはねえのか」
そう、震えながら言った。
「じゃったらこうすればええじゃろ」

ぎゅうう、っと抱きしめると、アンタは少しだけ鼻で笑って、また空を見上げた。
「きれいじゃな」
「そうだな。」
「なあ、アイスバーグさん…あ!流れ星じゃっ」


それは、
まるで星の海の中、泳いでいるようには、見えないじゃろうか。
すうっと一瞬で消えていく、それは、

まるで命が消えていく瞬間のようで。
殺し屋を生業にしているワシは。


あんたが隣にいるせいで、らしくもなく胸が潰れそうになる。
「なにを願ったんだ?」

目を閉じても、まだ視界に星が流れている。
そんなワシの耳に聞こえるその声に。

「アンタが…幸せを掴めるように、願ったんじゃよ」

祈るように、誓うように。

「…カク」


すまん、アイスバーグさん。

ワシが幸せを手に入れる時はきっと。


アンタの隣で眠る時、なんじゃ。

「あんたは何を祈ったんじゃ?」

「ンマー、願い事は言うと叶わないからなあ…秘密だ」

「ワハハ…ズルイのぉ」

そっとアイスバーグさんに毛布を渡し、ワシは近くの樹へ飛び移った。
「おい、カク…っ?!」

「今からワシが、アンタに魔法をかけてやろう」

ワシの言葉に、アイスバーグさんは目を丸くする。
「今宵、この星空をアンタにプレゼントじゃ! あの星も、あの一等綺麗な流れ星も、全部、全部あんたのモンじゃ」

楽しそうに台詞を並べていくワシを、アイスバーグさんは不思議そうに見ている。

ばっと両手を開いて。

「まるで、星空のシャワーみたいじゃな」

枝に足をかけて、そのまま背中から逆さにぶら下がる。


見上げた星空に、なぜか視界がじわりと、涙で滲んだ。

(このまま魔法がかかって、朝が来なければいいのに…)

海に流れ落ちてゆく星たちより、ただ夜空を支配している月に、それだけを願った。

「 あんたが。 アイスバーグさんが絶対に幸せになれるように。 今ワシが魔法をかけたんじゃよ 」
おどけて言えば、真摯な声が聞こえた。
「ンマ――、ありがとうな、カク」




なんだか、足元に星空が見えるのが不思議じゃ。

まるでそのまま歩いて、星の海を渡れそうな気がする。

「あんたと、一緒に歩けたらええのに」


小さく呟いた願いは、誰にも聞こえなくていい。

どうか、…――、




世界一大事なあなたに。

世界一美しい星空を贈ろう。

…ワシがあんたを見失わないように。


星をかかえて、きっとアンタは永遠に輝く。







END