「パウリー」
「なんだよ」
「ぱーうーりぃ〜〜」
「だから、なんだっての!?」
「ワシ、今日誕生日じゃ☆」
「そーゆーのって、自分から言わなくねえ?」
お前さんに言われたくないのお。 先月、1週間前からソワソワしとったクセに。 白々しかったぞ。
…まあそこが、可愛いんじゃけど。
『ふたつの 太陽』
そう言ってみれば、またムクれて、ぶーぶーいっとる。
本当に子供みたいなヤツじゃのお。
知っておるよ。ガレーラのヤガラレースで負けたことも。いつものことじゃし。
「別にプレゼント、ねだっとるワケじゃないぞ」
「じゃあなんだよ」
「今日は、ずっと一緒にいてくれんか?」
「へ…、そんなんでいいのかよ」
「だってパウリー。お前さんはいっつも飛び回っとるからのお」
「それ、お前のことじゃねえ?」
ワハハ。
それもそうか。
「とにかく、今日はワシの言う事、なんでも聞くんじゃぞ?」
「なんだよソレえ、やだっての!」
「先月、同じこと、お前さん言っただろう?」
ワシがそう言うと、パウリーはない頭で思い出しておるような態度をとった。
「あ。 言った…」
「じゃろ?」
「たしか、メシおごってもらって。 借金トリから巻いてもらって(空飛んで) …あと、は…」
「甘い夜じゃったのぉ…」
「///…そ、だな」
「かわいかったからのお。 殆ど手ぇ出させてくれんかったが、まあ許すってトコじゃの」
「だってオレの誕生日だったん、だし…」
「青少年をガマンさせるなんて、鬼の所業じゃと言うに…」
じっとーっと恨めしい目で見てみる。
「わ、悪かったよっ」
「いつになったら最後までやらしてくれるのかの〜」
「わああああ!!!そーゆー事、仕事場で言うなぁ!!!」
「…(あ〜面白い。いいストレス発散じゃ) あれじゃ。 今夜が楽しみじゃ☆」
冗談まじりでそう言ったワシは。
頭スッカラカンだと想っておった、恋人(仮)の、心の内なぞ、なんもしらんかった。
…ただ、今だけが、楽しければいい。
どうせ、あと数年したら。
この街とも、パウリーとも、サヨナラなんじゃ。
…辛くなんかない。 ただの遊びじゃ。
――じゃから、この胸が痛いことなんて…。
ただの気のせい。なんじゃから。
見上げる太陽が眩しすぎて。
ああ。
―― 眩暈が。 する。
「…、ッカク…!!!???」
視界の中、金髪が跳ねておる。
ああ、眩しいのぉ。
――太陽が、ふたつじゃ。
…ワシは、影じゃから。
消えてしまいそうじゃ。
――
――
…ちいさな頃の記憶。
ワシ、母さんも父さんも、知らん。
兄弟もおるのか、おらんのかも、わからん。
『ヘンな喋り方だな』
…うるさい。
『長い鼻って嘘吐きの証拠じゃん。 ピノキオみてえ』
…うるさいんじゃ!!!
『けどさあ。』
…おまえは、ダレじゃ?
『一緒にいると、楽しいよ。カク』
――え?
「パウ、り…?」
「あああ、起きた…よかったぁあ…」
白い世界。
なんじゃ、カーテンも壁も床も、真っ白。
ここ、どこじゃ?
「…おまえイキナリ倒れるんだもん、皆ビックリしてたぜ?」
「――、皆ってルッチとかがか?(信じられん)」
「ハットリが大騒ぎだったんだぜ」
「…で、ここ、ワシの部屋…じゃないのお」
「ああ オレの部屋!!」
「――え…」
顔に似合わず、意外とパウリーは秘密主義者で、コヤツの部屋に入った事あるヤツ、ガレーラの中では、おらん。
ワシじゃって、パウリーと付き合ってもう3ヶ月は経つが、ワシの部屋には来ても、自分の部屋には呼んでもくれんかったから。
「、大丈夫か? 体調悪いんならアイスバーグさんに言えばよかっただろ?」
「…(悪いつもり、なかったんじゃけど) …仕事も押しておるしのー」
「けど、そんなんで心配かけんなよ! せっかくお前の誕生日、皆で祝おうって、話してたんだぜ?」
「――マ、マジか、ソレ?」
「マジだって!! あ〜もう、そんなんいいから、ゆっくり休め、な! また今度、治ってから、ブルーノに用意してもらうから」
(ブルーノも、びっくりしておるじゃろうなあ…)
まったく、この街の人間はお祭り好きで、騒がしくて、かなわん。
…けど、
「…ありがとう。 パウリー」
「――え? …へ、へへ〜まだなんもしてねえよ」
「気持ちが嬉しいもんなんじゃよ。 」
お前さんは不思議な男じゃ。
一緒にいるのは、楽しいのと、興味が沸いたからで。
気がついたら、本気で好きになっとったよ?
…初めて、好きになったんじゃ。
本当は離したくなぞない。
ずっと、笑っておって欲しい。 ずっと、ワシと一緒におれ…なんて、言えたらええのに。
ルッチが聞いたら卒倒しそうな台詞じゃけど。
――自分でも、よくわからん感情じゃが。
「ハッピーバースデー、カク」
「ワハハ。 子供みたいじゃな。ワシ」
ワシ、ケーキも歌も、もらったことないが。
パウリーの為なら、捏造された過去を、真実に変えてみせる。
「…あのさ。 カク、オレの事、好きだよな…?」
(――…?)
「勿論じゃ! 大好きじゃぞ…?」
「…信じて、いいんだよな。 ウザがったり、しねえ?」
「どうしたんじゃ、なんかワシ、不安にさせたか?」
「だって、オレ…どこまでお前の事好きになっていいか…、わかんねェんだもん!!!」
「パウリー…」
ぎゅうう、っと抱きつかれた。
顔に、跳ねた髪が当たって、くすぐったいのぉ。
――
ああ。
愛しいのぉ。
可愛い…のぉ。 離したくない。
パウリー。ワシの、
只一人の、想い人。
「いつもいつも、オレばっか…バカみてぇ、に、カクの事でいっぱいで、頭んナカ、ぐっちゃぐちゃなんだぜ…、悔しいんだって――」
髪を撫でる。
好きになったヤツに好きと想われるコトが、こんなにも幸せだったとは。
好きになったヤツに好きと想われたのに。
――
ワシ、パウリーを、手放さなければならんようになる。
それが。
こんなにも。
「…痛いのぉ」
「――ええ!? どうしたんだよカク、どっか…」
「――キスしてくれたら治る」
「…、ええ…??」
「お前さんからじゃぞ」
「…ええ…、え?」
「――ケチじゃの」
「うう――〜〜〜わかったよ!!!」
シーツの上、まるで、
天井を超えた、空の国におるようじゃの。
まっしろで、真っ白で。
ワシは空を飛べるから。
そっと乗れる雲を探しておくよ。
そうしていつか、二人で飛ぼうか。
そうして、いつか。 パウリーとふたり、雲の上で幸せに、笑いあいたい。
なにも考えず。
ただ、この太陽をワシの…
ワシだけの太陽に。
イッコくらいええじゃろ。 他はなんもいらん。
―― なんにも、いらんから。
「…これで、なおったろ?」
照れたように笑う。
(仮)は、卒業かの、パウリー?
「いかん、さらに重症じゃ。」
そのままシーツの海に、パウリーを沈める。
「ええ!? ちょ、おいぃ〜〜〜っっ????」
伸し掛かって、遊んでいるかのように、ただ笑いあう。
消えてもええから、ワシ。
…お前に染まるなら、それもまた、幸せなんじゃ、きっと。
「おま!! 元気じゃんっ!!!」
「ワハハ、ハレンチな事、言うのおっ☆」
――
ワシ、こんな誕生日、はじめてじゃ。
――生まれてきた事を、感謝するのは、お前さんだけに。
ワシ、こんなに、切ない日、
…ああ。
一緒におると、泣けてくるほど…楽しいんじゃ、パウリー。
そっと窓の外を見上げて。
ふたつの太陽をこの掌に。
END