パウルチ『機械仕掛けのマリオネット』 
パウアイ
『新芽』 
カクアイ
『紫煙 
パウルチ
『ドレッシング』 
フラアイ
『まったくもって道理に合わない』 
カクルチ
『オレンジとストロベリー』 
カクアイ
『瞳に映る風』 
フラアイ
『君の頬に触れる朝』
カクアイ&パウルチ
『ある夜の話。』

以下、順不同です。長いです(滝汗)


【ある夜の話。】



「ンマー、お疲れ、副社長。どうだ、今日あたりルルやタイルストンも連れて、飲みにでもいかねえか?」


アイスバーグさんが、そんな風にオレを誘うのは珍しいことで。
副社長、なんて呼ばれんの、まだまだ照れくさくてこそばゆいオレは。

それでも、一瞬だけ瞳が陰ったアイスバーグさんの。


話し相手になれるなら、と二つ返事でOKを出した。




その日の仕事が終わった後、オレは店への道を歩きながら、ふてくされた声を出していた。

「なーんでこんな日に限ってルルもタイルストンも用があんだよ!!」
「ンマー、そうカリカリすんな。 それともなんだ、俺と二人で飲むのは、不服か?」
「え!? いや、そんなワケねーでしょう!? の、飲みますって!」

大体いつもはカクやルッチ、カリファもブルーノもいたから、二人で飲むなんてのは、あんまりなかった。



…あ。


…あー…、まあた、頭ん中だけど、簡単にあいつらの名前が出てきちまった。


もう、あれから、2週間は経ったってのに。

――まだ、この街にあいつらがいないのなんて、ウソみてえで。

変な、感覚。


「――ンマー、静かだな、パウリー」

「…え、あ、ああ。…アイスバーグさん」

「なんだ?」



ヘンだと思いませんか?

里帰りなんて言葉で全部全部、なかったことにして。
あいつらと一緒に過ごした5年間。


まるで蓋をしたみてえに。

――オレ、忘れようとしてんのかな。

なんっか、騙されたこと自体が。 騙されてるみたいな。

そんな感覚にね、たまに陥るんです。

あなたを危険な目に合わせて…っていうか、オレも殺されかけたってのに。

それでも、オレ――、

――アイスバーグさんは、どう思ってんだろう。
ずっと聞きたくて、でも聞けなくて。

怖くて。


「オレね。楽しかったんスよ」


「そうだな」


「あ 店着きましたね。 入りましょう」


「この店に入るのは久しぶりだな」
「そうッスね」


(ずっと、ブルーノの店だったからな)



どっちもそんな言葉は出てこなくて。
それでも。



なんとなく互いに思ってること、わかった気がしたんです。

なんでですかね。 アイスバーグさん。



「――俺の部屋で飲むか?」

「え、でも…」

「聞かれたら困るような話、しそうな顔してるぞ、パウリー」

「…はは…そうかも、しんないッスね」





副社長になって、服も変わって。
相変わらず借金取りに追われて、妙なファンも増えて。



なんだ、あいつ前、ルッチの事格好いいとか言ってなかったか?

あいつは、カクに憧れてるとかオレに言ってたよな?



―― なんでいなくなっても。


あいつら、オレん中から、…



「 なんで 消えてくんないんスかね …? 」


久しぶりに入ったアイスバーグさんの部屋で。買ってきたツマミや酒を並べて。


喉を通る麦の酒は、なんだか苦くて。


隣に座るアイスバーグさんの顔を見れずに、オレはそのままテーブルに突っ伏した。


悔しいんだか苦しいんだか悲しいんだか、わけわかんなくて。

黒い感情が、胸を支配しそうになって。

きっとね、それが一番怖いんです。


「無理に消すことなんざ、しなくていいさ」

「…けどっ!! あいつらは、…アイスバーグさんを傷つけて!! それだけじゃねえ!! オレの大切なもん、…沢山、壊して――、それなのに…」

「――、そうだな。 見事に騙されたからなあ」

「アイスバーグさんはなんでそんな落ち着いてられんですか?」

「…忘れなくても、いいんじゃねえかと思ってるからかもな」

「――、この街の市長なのに、ですか。 この社の、社長なのに、…ですか…?」

だったらオレだって、ルルだってタイルストンだって、
この社の一員であることに変わりはねえのに。

「ンマー、あいつらのな。 楽しそうに船造ってる姿が。 目に焼きついて離れねえんだ」

「…っ」

「カリファの、声もな。 ブルーノの出す酒の味も。…あんまり、日常的すぎてよ」


アイスバーグさんは、笑ってて。


「、すんません、オレ…、」


それでも、笑っていて。

「あの夜、すべては終わったはずなのにな…」



それから、オレとアイスバーグさんは、話題を変えるようにして、チビチビと酒を飲んで。




それでもなんだか誰かに言いたくて。

日付の変わる頃、オレは吐き出すように言った。


「オレとルッチ…、なんだろ、好きあってたワケじゃないかもしんないんですけど。 それでも、ずっと一緒にいたんです。 
できる限り、そばにいて、少しはルッチの…友達、のつもりだったんですけど。 
ホント、アイツ、…様子、おかしかった、かもしんねーんですけど。オレ気づかなくて、わかんなくて。

――馬鹿ですよね。裏切られても、こんな傷ついても。


今、この星空の下で、ちゃんとルッチが生きてんのか、たまに考えてんですよ」

わけのわからない言葉を、それでもアイスバーグさんはちゃんと聞いてくれた。

ぽん、と一度肩をたたかれた。


「俺もな。 カクの笑顔を願ってんだ…きっと、これからもずっと、そうなっちまうんだろうなあー…」





そういうアイスバーグさんの顔は。


やっぱりちょっと、寂しそうで。

彼の話を聞くつもりが、
やっぱり、聞いてもらうばっかな自分が、少しだけ格好悪くて。

それでも。


オレは一人じゃねえんだと。



失って傷ついた事の方が、何倍も。


裏切られたことより、苦しくて。


「 オレね、ルッチの事、すげー、好きだったんですよ 」




オレがそう言うと。



「ンマー、そうか」



アイスバーグさんは。





「俺はまだカクが好きだ」





そう言ってまた、グラスに入ったウイスキーを煽った。






ある夜の話。






END



【君の頬に触れる朝】





アイスバーグが机に向かって、半日が経とうとしていた。
それは、この街を彼が出て行ってからの時間だ。

彼の頭の中は、この島の未来の設計図が大半を占めていた。

あとは、


ほんの少しだけ、記憶に新しい空色の泣きそうな笑顔。


アイスバーグが彼との別れのときに笑顔でいられたのは。



きっと、彼が親友でも恋人でもなく。
アイスバーグの家族だったからだ、そう彼は思っている。


涙も出ないなんて、少し薄情だったか、そんなことを思うと、少し頬が緩む。
だがすぐに真剣な市長の顔に戻り、その腕は思考は、紙面へと向かう。




時計の音も、朝日さえ、彼の手を止めるものにはならない。


静かな朝に。
秒針が何周かした頃に。


一度だけ、彼の手は止まった。


そのまま彼は立ち上がり、少しだけ開いた窓に手をかける。








彼の頬に涙が流れなかったのは。


彼が笑顔で家族を見送ることができたのは。


彼が、今未来だけを見据えることができているのは。





「ンマー…。



お前は、いまでもずっとこの街を駆け回ってんだな」


きっと。



「おはよう、フランキー」


空色の風が、彼に朝を運んできたせいだ。





どこかの空の下。

彼に届くように。



また風はそれを運ぶ。






END

――空を飛ぶお前の目に映る空を、俺は見たいと想っていた。


その綺麗な翡翠色の瞳に、この蒼い空は。

どんな風に映るのだろうと。






『瞳に映る風』
 


「カク」


「おお。 アイスバーグさん、珍しいのぉ…アンタがワシに声かけてくるの、久しぶりじゃ」
「はは…そうだったか?」

「そうじゃ。 最近かまってもらえなくて、寂しかったんじゃぞ?」


変わらない声、瞳、髪の色。 笑ったときの、目が無くなるトコも、全部スキだ。

「そう言うな。最近は忙しくてな。 別にお前だけじゃない」

触れた時に感じる触覚も。
そうするとすぐに、お前から触れてくるトコも、全部、スキだ。


苦しくなるくらいに。

お前の心を占めているのが、俺だったらいいのにと、望んでしまう。

「う〜そ〜じゃろ? ワシの事、避けとった。 知っとるよ」

「…なんだそれは。 本当に…」


「ワシ、あんたの事ずっと見ておるからのぉ。」

「…? …え…」


簡単にカクは
俺の、心臓の辺りを、鷲づかみするような感覚をぶつけてくる。


心臓に悪い。 結構な年なんだぞ、おれぁ。

「やっぱり、ワシを許せなんだか?」



「…そんなの、決まってんだろう。俺はこの街の市長で…」
「だったら最初から拒絶すればよかっただろう」


だから。 お前はいつも、そうやって俺を急かすから。

―― 本当に困らせるのが、得意なヤツだな。

「最後まで聞け。 」
「最初から、スキにさせなければ、よかったじゃろっっ!!!」

「――ッ」



抱きしめられるこの感覚が、何よりもスキだ。


「アンタなんかこうじゃっ!!!」

「お、おい!? カク――ッ!??」



視界が早急に変わっていく。



ああ、



俺は今、空を飛んでいるのか。




「…カク…」

街一番の絶景なのだと、教えてもらった事がある。

あの事件の数週間前に、初めてカクと一緒に空を飛んだ。(飛ばせてもらっただけか)



「―― ここにくれば、ダレにも邪魔されん。 邪魔、させん…」
「…だから、最後まで聞け、 俺は、最初からお前を恨んじゃいねえよ」
「嘘じゃ!!! アンタは嘘ばっかじゃ…、嘘吐きのワシより、嘘ばかりじゃっ」


街一番の絶景。


街にひとつの、教会の鐘のすぐ上にある、ちいさな屋根の上。

『ワシにつかまっとらんと、落っこちてしまうぞ』

そう言って、抱きしめられたのを、よく覚えている。


「スキなんじゃよアイスバーグさん。 いつだって、あんたの一番は、ワシであって欲しい」

「…、とっくに、そうだってのに、仕方のねえヤツだなあ」

短い髪を掻きあげるように撫でて、

額にキスをひとつ。


「…ご、ごまかされん…ぞ?」

「…お前のな。目にはこの街の空は、どう映る?」

「、なんじゃイキナリ?」
「いいから答えろ」


「…――だってワシ、空なんか見上げとらんもん。 アンタはいつも、見上げとるけど」



―― なんだって?


「じゃあなんでそんな、空ばかり飛ぶんだお前」

「そんなの、アンタを見るためじゃ! それだけに決まっとろう」

「…もったいねえ…ヤツだなあ。 宝の持ち腐れだってんだ」


「…ワハハ…、」



気付いてたか、カク。

いつだって空を見上げる、俺の視線の先には。


―― お前がいた。




風と共に飛ぶ蜜柑色の髪色が。



俺の瞳に。


世界一の、


綺麗なこの空を映す。





END

『オレンジとストロベリー』




「甘いな」


「そうじゃな、甘いのぉお…」
「失敗か?」



「失敗じゃろお…」



気温は35℃。
暑くてしょうがなく、風も吹かないこんな日に。

わが社の看板社長、アイスバーグと共にガレーラのメンバーが集まって、

『オリジナルかき氷を作ろう』

などと言う子供じみた遊びに身を投じていた、数時間前が懐かしい。
現実問題、そんなに何杯も食べれる代物ではないコトに誰も気付かなかったことが問題じゃ。
妙に張り切った解体屋(社員じゃないのになんでおるんじゃ?)が。
次々と氷を調達してきて、ブルーノも悪乗りしながらシロップをどんどんかけていく。

――結果、みんな腹くだした。(合掌)

…まあ、ワシとルッチは大丈夫じゃったけど(毒見とか慣れとるし)

パウリーなど、30分は個室から出てこん。(言い出しっぺのクセにのお)


…一番やっかいなのが、この手のイベントを最後までやりきろうとする男、
ロブ・ルッチじゃ。


まあ、付き合うワシもワシじゃけど(惚れた弱みじゃ)

「、もう、ワシ、8杯目なんじゃけど…(さすがにおなか痛くなりそうじゃ)」

「まて…、ここでメロンと…そうだ…、グレープとレモンはさっき相性がよかったはず…」

――、ていうか、こんなコトしてなんの意味が、あるんじゃ!!!

「ルッチ! 聞いておるんか!??」
「うるせえ、少し黙ってろ、あともう少しでさっき作ったアイスバーグさんの気に入る味に…」
「アイスバーグさん、もう社長室に戻ったんじゃって!!!」

「カク」


「…なんじゃ」

「――おれの作ったカキ氷が、食えないのか…?」(寂しそうな瞳で)

「…食えるに、きまっておるじゃろう」(男前推奨)




――ああ… ワシも とんだ 阿呆じゃ。



10杯目。


ルッチが自信作だと差し出した。

コーラと、メロンとブルーハワイと…レモンと、

最後に、練乳をかけた名づけて『パンチDE・ルッチスペシャル』(ネーミングセンスが一番問題アリじゃ)



「…ルッチ」


「甘いか?」


「そうじゃな、甘いのぉお…」
「失敗か?」



「失敗じゃろお…」



「そうか」

そんなシュンとするな。 もうお前さんの目的がわからん。ダイブ前から。


ワシは、ガリガリと氷雪機で氷の山を、もう一度作った。
「こういうのは、シンプルが一番じゃ」


デカイオレンジの器に、氷をのせる。(果実の方じゃ)

整えたら、イチゴシロップをたっぷりとかけて。

「食うてみい」

「ああ」


―― シャリ。 シャリ。

「うまいじゃろ」





暑くて、どうしようもなく茹だりそうな、

氷は毎秒、水に変わっていくような、


そんな日に。



ルッチの表情は…


「 まあ、 悪くは無い 」




――少しだけ、むっとした表情。


「素直じゃないのぉ」


「お互いさまだ」

「ワハハ、それもそうじゃ」

んーそうじゃの。


名づけるなら。


『ワシとルッチ』。


気温は35℃。



ああ


暑い。






END

『まったくもって道理に合わない』




眠くなると、もぞもぞと動き出し。

小さく「ンマー」と呟いて。


お前はおれを、抱き枕代わりにする。

「…ほんっと、おれってそれだけの存在なのよ」
(理不尽すぎんだろ)

こんな風に。随分と大人(というか三十路超え)になったって。

それだけは変わらない。
この、おれ達しか知らねえ秘密基地に、布団を二枚くっつけて敷いて。
最初はただ隣に眠ってただけだが。 (まあする事はしたけどよ)

ほら、

寝息が聞こえてくると。

「…(もうちょっとだな)」

あと15秒。


さっきまでは。『抱きつくんじゃねえ』
とか、言ってた市長さんは。

「、…ん、まー…」

5、4、3…


(ああ あったけえ…)

長い腕がおれを、ぎゅう…っと抱きしめる。

嬉しそうに擦り寄ってくる頭と頬。

(くすぐってえ…)

昔っから変わらない。

アイスバーグ、お前のそんな仕草が、おれは嬉しいんだけど、よ。


「たまには、起きてみろっての。つまんねえ」


朝も弱いコイツだから。 先に目を覚ますのはオレ様の方だし。
その時は、また寝相悪いんだ、アイスバーグは。

たまに、夜中に蹴飛ばされるし(また痛いのよ、コレが)


まったく…理不尽な扱いだぜ。

ああ。

それでも、



「…フラン キー …」



(呼ばれれば嬉しい)


「アウ、ここにいるって…バカバーグ」



オレが笑うと。
つられて笑う、寝ぼけた社長。


そんなにひっついてたら。


可愛い寝顔、見れねえじゃねえの。



ああ。



今夜もまた理不尽な心境。




END

『ドレッシング』



料理下手なパウリーが、おれの為にそれを克服するんだ、と意気込んでから3日目。
おれ達の食卓に、ロクなものが並んだためしがない。


(そろそろ。 コイツも限界だろう)

目の前のテーブルには、焦げた鶏肉(だよな?) と、濁ったスープ(なぜ緑色なんだ??) パンは無事で(買ったものだからな) 、それから――。

下を向いたパウリーが座っている。

「だから言っただろう。人には向き不向きと言うものが…」
「だってよお、オレ、茶碗洗ったら割るだろ?」
「そうだな、もう20枚はムダにしたな」
「洗濯干したら、破くだろ?」
「ああ。おれのお気に入りのシルクのシャツ、弁償代金がまだ未払いだ」
「…う☆ …で、掃除機かけたら…」
「水をこぼしたところを吸って、掃除機自体がダメになったな」
「あと、アイロンかけたら」
「火事寸前だったな」


(どんだけ不器用なんだ、コイツはっ!!??)

そう言いたいが、これ以上凹むコイツの顔を見るのも忍びない。
「…まあ そうしょげるな」

犬耳(おれには見える)をへなへなと下げて、尻尾もダラン…と垂れている。

「オレ、ルッチのために出来ること、なんもないのな」

「…勘違いをするな。 おれはここに居候している身だぞ?」
「そんなん!ルッチの給料なら別にアパート借りられるだろうし…」
「なんだ、出て行って欲しかったのか?」
「ええ!? そんなワケないだろ!?」


――ガタンっ!!

「コラ、水が零れただろう。 そういきり立つな。」
「…だって、よお」

(くそ…可愛い…ヤツ。 おれも相当病んでいる)

「例えお前にそう言われたとして、おれが出て行くと思うか?」
「――かない、と思う」
「当たり前だ。 お前には色々奢らされたからな。」
「…それだけ?」

「ふ…。 理由などどうでもいい。一緒に住んでいるかどうか、もだ。 
ただおれは一日の内、お前と過ごす時間があればそれでいいんだ」

(それが本音だ。 昔と変わらず、お前の生きている時間の中に、おれが居れば、いい。)


「おれは、やっぱルッチと一緒がいいけどな」
「だったら、おれといる空間の中では、ムリをせずに、いつものお前であればいい」
「そうか…へへ…」


「まあ、食えないワケじゃない…」

スープを一口。 ほうれん草味しかしねえな…。

チキンを一口。 胡椒が…強い…な。

パンを一口。 …うまい。

それから。



「ああ パウリー」


「へえ?」


「お前、おれの好きなドレッシング、覚えていたんだな?」


「おう! ノンオイルだろ?」



知らないのか。 パウリー?

お前の、笑顔も声も、こんな優しさひとつでさえ。

おれにとっては、代え難い幸せだ。



「――上出来だ」


明日は一緒に

キッチンに立とう。




END

『紫煙』


アイスバーグさんはいつも、決まった時間に煙草を銜えている。
それを知っているのは、恐らく解体屋とワシくらいじゃろう。
ガレーラの職長や社員は、殆ど煙草を吸っているのじゃが。
ルッチとワシは吸ってはおらん。 煙草は依存性が強いから嫌いじゃ。

なんだか、麻薬のようで。

それが、また…アンタに依存している自分に似ているから。
煙草は、嫌いじゃ。


「カク、お前、最近元気ないな…どうした?」

(本当に、ワシの事よく見とるのぉ。)

「――なんでもない、大丈夫じゃよ、アイスバーグさん」

(ワシが嫌いなものは、アンタが好きで。 ワシが好きなものは、アンタは嫌いなんじゃ)

ただの偶然かと思っておったが。
好きな食べ物も動物も草花も色彩も服も機械の機種も。

「まったく趣味が合わん」
「…なんか言ったか?」
「なんでもない」
「煙かったか?」

(嫌いじゃと言ったのに。 アンタはワシの前で煙草を吸うのを、やめない)

――なんでじゃろうなあ?
紳士なアイスバーグさんの事、言えばすぐにやめると思ったんじゃが。

そんなに、美味いもんかの?

そっと、アイスバーグさんの煙草に手を伸ばす。
「――。」

ワシは無言で。


アンタも無言で、つい…、っとその指を横に反らし、取れないようにしてしまう。
(やめておけ、っと言いたいのか?
「ワシ、もう23じゃ」
「お前、嫌いなんだろう?」
「だったらわざわざワシの前で吸うな。 不快じゃ」

「だから、そうしている」

「…?? なにを言っておるんじゃ?」

「お前はいつも飄々としていて、俺を困らせてばかりいるからな。 仕返しだ」


(…、…これが市長の台詞か?社長の、台詞か?)


ああ それなのに それでも ワシは アンタが 愛しい。


にい、っと笑うアンタに。


煙草よりもずっと美味いキスを。




部屋を包み込む紫煙は。

窓を開けて追い払う。




END

『機械仕掛けのマリオネット』


「ルッチ〜、スキだ」

今日も言ってみる。


「…わかっている」


(そうじゃないだろー)

「スキなんだって」

「…わかっている。何度も聞いた」

「だから〜」


(お前はオレのこと、どう想ってんだよ?)


ルッチと再会してからのこの2年、とうとう想いを告げて。

それなのにルッチは、おれをスキといわない。

好きだって、顔に書いてあんのに。 うぬぼれじゃない、と思う。

頬に触れて、撫でると、気持ちよさそうに目を細めて。
髪に触れて、撫でると、困ったように、目を伏せて。

「好きだよ、ルッチ」

「聞き飽きた」

「じゃあ、なんていえばいいんだ、この気持ち」
「――言わなくていい」

「…ふうん」

おれは嫌だけどなあ。 好きなヤツには好きって
言って、同時に言ってほしいから、俺はなんどでも繰り返す。

「なあ、おまえってさ」
「なんだ」


「なんか、人形みたいな」

「――、つ…どういう意味だ?」


「うん。すっげー整ったキレイな顔してんだけどさ。 泣かないし、そんな本気で怒らねえし…なんか、ムリして感情押し込めてるよーに。見えんだ」

「…そうか。 気持ちわるいか?」
「いや、すげー好きだけど」
「だけど、なんだ?」


キスをしても、怒らない。

好きだから?

押し倒しても、怒らない。

どうでもいいからか?


わかんね。 でも、おれがルッチを好きだってのは、解るし。


だから今日も。

機械仕掛けで動くマリオネットに。

「好きだって言えよ」



「――いやだ」


断りの台詞を言わせる。


このときのかおだけ。ほんもののこいつのかんじょう。


照れたような、顔で。

それでもキスをこばまない。

おれだけの、



感情のある傀儡。



「…少しだけ。好きになった」



…少しずつ、人間にかえってく。



END