真っ白い紙に緑の線と、お決まりの事柄が書かれている。
御剣は目を一瞬丸くして、その後に泣きそうな顔をして、少しだけ黙った後、きれいな文字で、サインをしてくれた。

ぼくはと言えば、こんな事をしている自分に驚きながらも。
自分の中にある感情を論じて、結果、これが一番ぼくと御剣にとって大切な事なんじゃないかなって、そう思って。

その結果が、今、御剣が隣にいるって事なんじゃないかなって思うんだ。


『サーズデー・サーズデー』


ぼくと御剣と、ついでに矢張がここにいる。
本当だったら御剣とふたりっきりで甘い時間を過ごしたいって。
そればっかり考えていたぼくなんだけど。

今回ばかりはそうもいかない。
御剣とぼくが結婚できたのも。ちょっとだけこいつのおかげっていうのもあるからなんだけど、ね。

「おいおいおいおいおい〜、なんだよそのしけた面ぁよう! もっとこう景気よく明るくいこうぜえ、御剣に成歩堂よぉーー?」

このテンションは一体どこから生まれてくるんだろうなあ。
少しはぼくと御剣にわけてほしいくらいだよ。

「っかー、もういい、皆まで言うな、こうあれだ、あとはもうおれたちにまかせとけよって話なんだなあ、これが!」

「…」
「……。」

まずい。せっかく矢張が盛り上げようとしているんだけど、
御剣がまったく視線を合わそうとしてくれない。

ぼくの御剣への気持ちを知っているのは、
ああ、前も言ったと思うんだけど、矢張と、冥ちゃんと、真宵ちゃんなんだけどね。
その、なんていうか、みんなが、結婚パーティー開こうよっていう計画を立ててくれてるみたいなんだ。
これはまだ御剣には内緒。秘密にしておいたほうが、
なんていうかサプライズになるだろ?

まあ、少しは気づいてるかもしれないんだけどさ。
余計に恥ずかしいんだろうね。御剣はそっぽを向いたままなんだ。

「でよお、さっそくなんだけどな。御剣、ちょっと成歩堂と二人にしてくれ。話があんだよ」
「…ム。なぜだろうか、私がいる事に問題があるのなら、問題提示してみたまえ」
「っかー、ほんとそういうトコおまえうぜえなあ。 もんだいていじってなんだよ、そっから教えろ!」
「あー、矢張、どんどん話が脱線していってるんだけど」
「だってよぉ成歩堂、こいつなんでオレ様に対してだけこうなわけ?
もうちっと、歩み寄りが大事だろうが」
「……うるさいのだよ。静かにしたまえ。紅茶がまずくなる」
「かかか、かわいくねええええ」
「貴様にかわいいとなど思われたくはない」

「…まあまあ、ふたりとも、喧嘩はよくないよ。ね?」

これだもん。とにかく全然話が進んでくれない。 三人で話すっていうのは無理があるんだよなあ。
でも御剣の機嫌はそこねたくないし。

「御剣!そういえば最新作のトノサマンのDVDを借りてきたんだけど」
「なんだと!? それを早く言え成歩堂、さっそく観てくるのだよ」
「あっちの部屋にあるから、見てきなよ」
「うム。そうするのだよ。では、ふたりは…」

「あー、ぼくはまた後で御剣と観るから」
「…あー、オレ様、もう観たことあっからいいわ」

今更だけど、御剣ってどうしてあそこまでトノサマンが好きなんだろう。って、話が脱線しちゃうから、まあそれはいいとして。

「では、また後でな、成歩堂」
「うん、御剣大好きだよ」

「………っ!!!! き、キミは、…や、矢張がいるのだぞ!!!」
「うん、でも言うよ。大好き御剣」

「……っ…か、勝手に言っていたまえ…」
「御剣。 ―― 御剣も言って?」

「………………………、す、…言えるかバカモノ!!!!」

ああー、あっちの部屋行っちゃったよ。
まあいいか。もう、本当に照れ屋だよなあ。

「…あー、おい、オレ様の存在忘れてねえ?」

「あ、居たのか」

「いたのか、じゃねえよ!!」

「あはは…、悪い悪い。えーっと、なんだっけ」

「おまえと御剣の結婚式の話だろー?」

「矢張声大きいって。御剣に聞こえたらどうするのさ」

「…あのなあ。…まー、けどよ、よかったじゃねえの。
まさか本当におまえと御剣がつきあうっつーか、
まさか結婚するだなんてよ、思わなかったぜ、オレ」

「うん。ぼくもまだ信じられないよ。
でも、御剣もぼくの事好きだって言ってくれたからさ。」

信じられなかったけど、御剣がそれを現実にしてくれた。
ぼくだけの片一方の思いだと思ってたのに、御剣はぼくの気持ちに応えてくれて。

そうして、ぼくとの結婚まで、考えてくれたんだ。
真面目なヤツだから、戸惑っただろうけど。

あんまりすぐに答えをくれたから、ぼくはなんだか、ホントやっぱり――…。

「成歩堂、夢じゃねえんだから、そんなカオしてんなよ」
「はは、そんな顔してたか?」
「ったくよお、なんでおまえも御剣も、こう、恋愛ってヤツを、小難しく考えんのかねえ。
恋だの愛だの言葉にすっから面倒になんだよ」
「…矢張…」


「好きだってんなら隣に座ってりゃあいいじゃねえか。
愛してんなら、結婚すりゃいいだけの話だろ。
わっけわっかんねえわ」

ああ、ホント、たまにコイツって確信をつくよな。

いっつもバカな事ばっかしてるクセに。

「サンキュー、なんか、元気でた」
「ったくよお、男に礼なんざ言われたって、ちっとも嬉しかねえよ。
あああ!! ワリィな成歩堂、サブウェラちゃんからメールきてんだわ、そろそろ行くわ」

「――…はあ? …いやまあいいけどさ」

「心配すんな、おれらにまかしときゃあ、大概のことはうまくいくからよっ。
じゃあなあ、親友!!」


そうして矢張はさっさとマンションから出て行った。

ああ、なんだか。

胸のつかえが取れたみたいだ。



ぼくは引き出しから、昨日御剣と一緒に書いた一枚の紙を取り出した。

そこには、

真っ白い紙に緑の線と、お決まりの事柄が書かれている。

「…御剣」

隣の部屋でトノサマンを見ているだろう、愛する人を想いながら、
その紙に額を当てて、願う。

神様、どうか、ぼくらを――。

こんな滑稽な真似しかできないぼくらを、

笑って見守っていてください。

昨日、
御剣は目を一瞬丸くして、その後に泣きそうな顔をして、少しだけ黙った後、きれいな文字で、サインをしてくれた。

ぼくはと言えば、こんな事をしている自分に驚きながらも。
自分の中にある感情を論じて、結果、これが一番ぼくと御剣にとって大切な事なんじゃないかなって、そう思って。

その結果が、今、御剣が隣にいるって事なんじゃないかなって思うんだ。