正反対恋愛論。




「…矢張、…今君はなんといった?」
「あー、お前、今冗談だと思ってんだろ、わかんだよ、オレってほら、そーゆートコ、繊細だからっ」
「…いや、冗談であってほしい、と思っているんだ」
「似たようなもんじゃん。なんだよ傷つくなぁ」

矢張政志。彼と私は幼なじみで、級友で、腐れ縁で。
そんな彼から、1分ほど前、好きだ、と告白を受けた。
冗談どころじゃない。
からかっているに違いないのに、勝手に胸が痛む。

「君は、どうみてもストレート、女好き、むしろ誰でもいい、…そんな男だ」
「だからひでえなお前はっ! 愛に性別なんて関係ねえよっ! つうか誰でもいいって…―― そんなわけ、ないだろ」
「うム…言い過ぎた、謝罪しよう。」

たまに真剣な顔をして。
たまに、私を驚かせて。
でもすぐにそれは、へらっとした笑い顔に、変わる。

「な、考えてみてくれよ。 オレ、本気だぜ」
「どうして、急に…私達は、…その、一応は、いい友人ではないか」
「ん。そうだな。 でもよ、成歩堂に渡したくねえんだ」
「…え…」
「あいつ、完全にお前が好きだろ? お前だって、たぶん…そうなんじゃねえの?」
「いや、私は成歩堂の事は、いい友人だと思っている。恩人でもあるしな。―― それ以上の、感情は、ない。」
「それ、ホント?」
「ああ。」
「…そっか、じゃあ、オレ、まだあきらめなくていいんだな」

こいつは、へらり、と笑って、
子供のようにワガママを言って、
正直で、だまされやすくて、純粋で、

…まったく、


「…そうだな。好きにするがいい」
「よおっし!じゃあさっそくデートしようぜ」
「どうしてそうなるのだ…」
「いいじゃん、お前の好きそうなさ、コンサートのチケット、友達にもらったんだよ。 行こうぜ! まあ、おれはたぶん途中で寝るけどなー」

…本当に、
損得勘定なしで、人付き合いをしているのだから、
…まぶしくて、困る。

「ふむ、なかなかいいな。…まあ、つきあってやらないこともないか」
「これ、7時からだからよ、それまで、どうする?」
「そうだな…仕事に戻る」
「ええええーー」
「これでも忙しい中、抜けてきたのだよ。」
「ちぇえー。わかったよお。 じゃあ、会場で待ち合わせな。 一応1枚チケット渡しておくから。…じゃあな!」
「ああ、あとで会おう」






時計の針が、18時55分をさした。
まったくなにをしているのだ、アイツは。
いくら周りを見ても、それらしき姿はない。

ふと、背に気配を感じた。

「…御剣」
「矢張、キサマはどうして時間に………成歩堂?」
「その、アイツから、これ、もらったんだけど」
「………どうして、キミが…」
「なんか、おまえと一緒に、…見てこいって、オレは寝ちゃうからって、言われた」
「…っ…」
「――まだ、間に合うんじゃないかな…行ってきなよ、御剣」

私は、成歩堂にチケットを渡し、真宵くんでも呼んでやってくれ、と言って、その場を後にした。





廃屋に近い、昔私達3人が、秘密基地としていた場所。
まだ、あったのだな。
成歩堂に聞いた時は、こんな場所を未だに隠れ家にしている矢張の気がしれない、と思ったものだが。
改造してあるな。これは、法律違反ではないのか?

「キサマ…こんなところにいたのだな」
「…、え…なんで?」
「さっきのはどういうことだ。 説明したまえ、私にわかる言葉でな」
「…だって、やっぱりオレじゃ、かっこつかねえもん。お前の隣にいる、さ?」

先ほどとは、言っていることが、真逆だ。
成歩堂に、私を渡したくない、と言った。確かに、そう聞いたのだ。


「…、それで?」
「…だから、もうちょっとしたら、日割りバイトしてよっかな〜って」
「チケットは、本当に、友人にもらったのか」
「…ううん、買った」
「…ばかもの」

そっと、近づいていく。

「御剣、オレさ、…マジで、お前が好きなんだよなぁー」
「…わかった」
「すげー、すきだ」
「…わかったから。 …だったら、抱きしめるくらいは、したまえ」
「え、…いいのかよ」
「かまわない。…寒いのだよ」

「そっか」
「そうなのだよ」
「じゃあ、キスしてもいいか」

試すような言い方だ。 むしろ、まるで、ここから逃げろと、言っているような。

「…、勝手にしたまえ」
「へへ、かわいくねえ」
「…うるさい、…ん…っ…」
「うそ、…すげー、かわいいよ、…御剣」
「…、っは…、…チケットを無駄にしてしまった、今度は、わたしが、君を誘おう。…水族館あたりでどうだ?」

「…、ん。…すげえ、楽しみ」
「そうか。…ならばいい」


ぎゅう、と、子供のように抱きついてくる矢張は。

「なあ…オレのこと、好きになって…」
と、小さく、つぶやいた。
「…にぶいな、本当に、キサマは…」
「…え」

「…とっくに、…」





ああ。
やはり、

私は、君の笑顔が好きなのだ。






おしまい。