正反対情愛論、数秒前。





たとえばさ、高嶺の花って言葉、あるじゃん。あれって多分、こいつの為にあるような言葉だと思うんだよね。
つうか、思ってたんだよね。実際。ほんと、ほんの、数週間前までは。

「君が家にくるのは、久しぶりだな」
「おお。前にやったおまえの誕生日パーティー以来じゃね?」
「そうだな」


御剣は、部屋に入ると、すぐにオレのあげたガラス細工を飾った。
高級そうなもんに囲まれて、窮屈そうだけど、悪くはねえ、と思う。まあ、よくわかんねえんだけど。
そんでもって、ついでに、うれしそうにそれを眺めてる。
なんか、すっげえ、胸ん中が、ふわふわする。 そんなコイツ、見たことねえし。

…いまさらだけど、一応、つきあえ、たんだよな?

こいつの気まぐれかもしんねえけど。
いや、昔っから、一本気な性格だから、そーゆーのは無いと思うんだけど。まじめだし。…今時よお、なのだよ、とかいうやつ珍しいよな。 
オレびっくりしちゃってんのよ、なんつうか、信じられねえわけよ、実際。
そんなこいつが、オレのこと、…成歩堂じゃなくて、オレのこと、好き…、らしいって事に。

「御剣」
「なんだろうか」
「オレのこと、好き?」
「ああ、…きらいじゃない」
「好き?」
「言わせるな。…まったく。 好きではなかったら、家になど、呼ばない」
「ん。…そっか。へへへ」

やっぱ、聞いてみるのが一番だよな。オレ、難しいこと、苦手だし。

「紅茶を入れよう。 そうだな、君はクッキーは好きか、…ん…」
「……、おれは、御剣が好き」
「キス、するときはいいたまえ。」

「ええ〜、いちいち言うのかよ」
「では、急にするな」
「むずかしいっつーの」
「…ふ…、そうだろうな」

御剣は、不思議なやつでさ。昔から、かわいくて頭よくて、でも変わってて、ちょっとだけ、…闇の部分もある。
おやじさんのこと。くわしくは聞いてないけど、な。

「あのよお…もう、夜とか、ちゃんと眠れてんのか?」
「…ああ。悪夢も、見ないようになった。成歩堂の、お陰だな」

成歩堂と、オレだけ知ってる、天才検事御剣怜侍は、実は、すごく、傷つきやすくて、泣き虫だ。

「…よかったな」
「…、…矢張…」

「ん?」
「その、…、もっと、キスがしたいのだが」
「…いいよ?」


ちょうど近くにあったベッドに誘って、押し倒して、何度かキスすると、すぐに御剣の息があがった。

「…、は…、キスがうまいな、…」
「ま、おまえよりは経験あるし?」
「ム。 最低だな、そーいうことは言うな」
「嫉妬する?」
「人並みにはな。……まあ、いい。キサマは私のもの、だからな」
「すげ、独占欲」
「…迷惑だろうか」
「そんなことねえよ。御剣検事にそんだけ思ってもらえるなんて、すげーじゃん、オレ」

「…その言い方は好きじゃない」

「じゃあ、親友の御剣にそう言ってもらえて、光栄だぜ」
「親友、ではない、…恋人だ」

…つうかさ、ナチュラルに天然に誘うよな、こいつ。
まったく、しょうがねえなあ。


「じゃ、…する?」

「…、まあ、かまわない」




たとえばさ、高嶺の花って言葉、あるじゃん。あれって多分、こいつの為にあるような言葉だと思うんだよね。
つうか、思ってたんだよね。実際。ほんと、ほんの、数週間前までは。

けど、どうしても、欲しかったから、手で触って、撫でてみた。
そうしたら、あんまりにも簡単に、こっちを向いたから。

「…時代劇がかった喋り方もさ、慣れてくると、かわいいもんだな」
「っうるさいのだよ、…っさ、さっさと、したまえ」


きっとこいつは、オレのスカスカの頭ん中、御剣ばっかだってこと、わかってんだろうな。

だから、さ、御剣。

ちょっとだけでいいんだ。
一瞬でも、数秒でもいい。

おまえが、色んなこと忘れられんならさ。
おれの人生丸ごと、やるから。

キスでもその先でも、なんでも、おまえに、やるから。
頼って泣いて、最後に笑ってくれ。

―― こんなオレでも、おまえが必要とするなら。 きっと、

「…御剣。好きだぜ」

「、わ、…私も、だ」

その一言だけで。

闇を掃う、風になってやるから。