御剣って、いつ、寝てるんだろう? そもそも、ぼくは彼の人生の数パーセントしか、彼の側にいれないわけなんだけど。 でも。もう十年くらいの親友だっていうのに、寝顔ひとつみたことないっていうのは、なんだかなあ。 ついでに言えば、ぼくは念願叶って、彼の親友から恋人に、先日昇格したんだ。 なのに、御剣は、ブラックアウト以外で、ぼくの前で寝顔をさらしたことがない。しかもそれは、すぐに起きてしまうから。…寝言すら、聞けない。 それってちょっとさみしいじゃないか。 少しくらいは、御剣にとって安心できる存在になりたいじゃないか。 数パーセントの恋情。 「ってわけで、はい、みつるぎ」 「キミは、一体なにをしているのだ」 「見てわからない? 膝枕してあげるから、昼寝しなよ」 「遠慮しておこう、気持ちだけで十分だ」 表情ひとつ変えず、また、御剣の視線はノートパソコンに向かってしまう。 絶対に、この部屋に来て、ぼくにふれている時間の何倍も、それにさわってる。なんかもう、無機物にまで、嫉妬してしまう。…それっくらい、おまえに夢中なのに。 つれない恋人。 「…みつるぎってばー」 「少し静かにしてくれたまえ。 集中できない」 「なんだよ…恋人より仕事が大事なのかあ〜?」 冗談まじりで言えば。 「いや…そんなことはない。キミのほうが大切だ」 「、う…」 反則だよ御剣。なんでそんな笑顔で、優しくいうんだよ。 これじゃ、どっちが彼氏だか、わかんないよね。 経済力、学歴、魅力、ルックス、美貌、…ぜーんぶ持ってる御剣。 それなのに、なんにもないからっぽのぼくを、愛してくれた。 「少し…、…そうだな…、30分だけ、休ませてもらおうか」 「ほんと?」 「ああ。…昨日は寝不足でな。実は少し眠いのだよ」 「じゃあ、遠慮なくいいよ♪」 立ち上がって、ぎゅーっと抱きしめる。 いいにおい。御剣の香りは、いつも、ぼくを安心させてくれる。 「成歩堂、…」 「なに?」 「いや…その、うなされたら、起こしてくれたまえ」 「…まだ、悪夢をみるのか?」 「いや、…そうではないのだが…、…まあ、似たようなものだ」 完璧に見える御剣は、実は、すごく繊細で、傷つきやすくて、泣き虫で。 それを、ぼくにだけは、見せてくれるようになった。 「うん、わかった。」 「すまないな。…まあ、キミになら、今更なにを見せてもかまわないだろう」 「当たり前だろ。お互い様だし?」 「そうだな」 ちいさいキスと。 そのまま、御剣はぼくの膝の上で、うとうとと目を閉じる。 優しい時間が流れていって、規則正しい寝息が、聞こえてきた。 あんまり、幸せそうに寝ているから、ついつい、1時間もその寝顔を堪能してしまって。 「、まったくキミは…っ、起こせと言っただろう?」 「いいじゃないか。持ち帰りの仕事なんだろ、そんなの御剣なら、30分くらいでさあー」 「その…、…私は、何か言ってはいなかっただろうか」 「なんにも?」 「そうか…」 「ぼくが側にいたから、安心できたんじゃない? いっそ一緒に暮らしちゃおっか?」 にこにこと提案する。もちろん、そんなのは無理。 天下の御剣検事と、弁護士としてまだまだのぼくでは、まったくつりあってないし。 しかも男同士。小学校からの親友。…世間様には言えない関係。 「…それも、いいかもしれないな。考えておこう」 「えええっ??」 「なんだ、キミが提案したのだろう、なぜ驚くんだ」 「だ、だって、…そんな、…オッケーしてくれるなんて、…」 「まだ了解したわけではない。…すぐにとも思ってはいない。…まあ、将来そうなれたら、と私も思う」 「ほんと?いついつ? 将来って…1年後? それとも5年後くらい??」 「…まったく、キミは騒がしい男だな。…まあ、キミが私と一緒に生きていってくれると、確信できた時だ」 御剣は少し難しい言葉で、はぐらかしたけど。 「うん、じゃあ、待ってるね」 「ああ。…なんだか、キミのおかげで…、ねむ、くなってきた……」 「もう少し寝る?」 「そうしよう…、仕事は…」 「無理しちゃだめだよ。」 ベッドの上で膝枕をしたまま、話していた御剣は、そのまま、瞳を閉じた。 「…、なるほ、どう…」 髪をなでていると、規則正しい寝息がまた、聞こえた。 かわいいなあ。 いたずらのように、またキスをする。 「……、起きないな」 ぼくは、御剣怜侍の恋人で、親友で。 「これからは、家族になれたらいいな…そう思わない?」 今は、彼の人生の数パーセントくらいしか、そばにいられないぼくだけど。 世界を飛び回る御剣検事の、数パーセントしか知らないぼくだけど。 「ああ…、すき、だ…」 「……うわ、寝言でそんな返事は…はずるいなあ。」 その数パーセントは、誰も知らない大切な確率なんだ。 |