サマー・アイス・ラバー




みんなも知ってると思うけど、ぼくは夏が嫌いだ。っていうか、暑いのが、だいっきらいだ。
じめじめする梅雨。そうして気温は急上昇。頭は、ぼーっと働かないし。汗だくだくで、書類に腕はくっつくし。
ものすごーく、いらいらする。

「失礼する。…成歩堂、いるか?」
「………いない」
今日も来た。御剣ヒマなのかな。

ちなみに御剣はぼくの事務所の鍵を持っている。
ぼくはあげてないんだけど、真宵ちゃんがあげたみたいだ。(なんでなんだろう)

御剣はドアを開けて中に入ってくると、ぼくを見つけて呆れたように声をかけてきた。
「いるではないか。また、夏の暑さにやられていたのか。情けないな」
しょうがないだろ。夏に弱いんだよ。この事務所エアコンあるけど、今月電気代ピンチなんだよ。…っていうか家賃もやばいんだけどね。

「…御剣はいいよね、いつだってエアコンのきいた部屋だし、スポーツカーだし、歩くときは、イトノコさんが日傘持って歩いてるんだろ?」
「……はあ、馬鹿か、キミは。 いつでも私と彼が一緒にいる訳がないだろう。」

「御剣は、夏にわりと強いもんね。肌は真っ白で、ぜんぜん焼いてないし。…夏、外国いってるとか?」
「…会話ができていないな。…まあいい。せっかくのアイスが無駄になってしまうが…」

…そっか、アイス…アイス…
「…え、アイス差し入れにきてくれたのっ?」
机に突っ伏していた顔を上げると、御剣の手には、確かに白いコンビニの袋を下げていた。
「現金なやつだな、本当に…、ほら、キミのすきなぶどう味のかりかりくんだ。ソフトクリームもある。」

「みつるぎぃ、だいすきっ!!」
「…私は、今はそうでもない」
冷ややかに引いている御剣だったが、手に持っていた袋から、アイスを差し出してきた。

「ひゃー、生き返るなあっ」

受け取ったアイスを頬にぴた、っとくっつける。冷たくて気持ちがいい。
「喜んでもらえたようで、幸いだ。 残りは冷凍庫に入れておくから、真宵くんと春美くんにあげてくれたまえ。
…それではな、成歩堂」
「え、もう行っちゃうの、…っていうか、これだけの為に来てくれたの?」
「…まあ、時間はあるのだが、キミはいらいらしている時は、一人にしておく方が賢いからな」

言いながら、扇風機に向かってああーーー、とか、やってる。 たまに御剣ってわかんないよね。

「ごめん。気ぃ使わせて。怒ってる?…あのさ、けど、アイス一緒に食べるくらい…いいんじゃない?」
「…ぁぁーーー…、では、そうしようか」

ふふん、と珍しく御剣が笑う。こいつは、いつも眉間にシワが寄っているから、こーゆう表情を見せられると、なんだか妙にドキドキする。
…まあ、それはただ単に、ぼくが御剣に想いを寄せてるっていう理由からなんだけど。
あ、みんなも知ってると思うけど。ぼくは御剣が好きだ。っていうか、もう、愛しちゃってるんだ。
「懐かしいな。…昔はよく、矢張とキミで、食べたものだな」

相変わらず、きれいに笑うやつだな。…作り笑いと苦笑ばっかのぼくとは、大違いだ。
御剣はこっちに歩いてくると、備え付けのソファーに座りながら、アイスキャンデーを取り出して、食べ始めた。

「……う…」
「どうした?」

言えない。絶対いえない。めっちゃくちゃいかがわしく見えるなんて、つうかなんでそのセレクトなんだよ。
しかもミルク味とか、もう、なんか狙ってやってるとしか思えない。
どうしても視線がそっちに行ってしまう。
「…、あのさ御剣?」
「ん? キミも食べたまえ。たくさんあるぞ」
「…、いや、そうなんだけど……、た、垂れてるって…口の周りとか、あごとか。」
「ああ…、すまん、どうも、ファーストフードや、このような食べものの場合、私は食べ方がうまくないのだ」
少しだけ、御剣が寂しそうにそう呟いた。
ああ、そっか。
きっとそれは、狩魔家じゃあ、あんまり食べさせてもらえなかったからなんだろうなあ、と推測する。

「…ほら、ここ」
顎のあたりにたれているその滴を、舌でなめとる。
「…、キミは…一体なにをしている」
「も、もったいないでしょ?別に特にイミはないよ」
「しかし、べたべたするではないか、…しかも、くすぐったい」
「じゃあ、食べ方教えてあげる…からさ」


夏のせいだ、夏が暑いからいけないんだ。確か、昔の流行りの曲に、そんな歌があった。
御剣の頬が、熱気で少し染まってるのも、額から汗をかいてるのも。
それにぼくが、…欲情しそうになっていることも。
全部。

「では、そうしてくれたまえ」
「…う、うん」
御剣もどうかしちゃってるのかな。…きっといつもだったら、一蹴されているような事を提案したのに。
まあ、気が変わらないうちに…っと。
ぼくは御剣からキャンデーを受け取って、御剣の口にそれをそっと入れた。

…ぺろぺろと、赤い舌が動く。
「、ん…」
「……もう少し、口開けて」
「、…ふぉうか?」

ごめんなさい。いかがわしいけど幸せ…。多分夏が好きになれそうだよ。
御剣は、ぼくの言うことを素直に聞いている。

「そのまま、吸うみたいにして、食べて」
「…んむ。」

水音が、部屋に響く。
それでも、御剣の口の周りは、ミルクだらけで。
少しだけ、喉の奥に、アイスを入れた。 御剣が、苦しそうに顔をゆがませる。
「、なる、…歩堂、…んう…」
「食べて。…舐めて、御剣…、大人なのに、…ちゃんと食べれないなんて、恥ずかしいでしょ?」
一瞬の彼の戸惑いを、なんとか言いくるめる。
こくん、と御剣はうなづくと、そのまま目を閉じた。
ごめんなさい、…完立ちしてます、ぼく。

「ん、…ん…ちゅ、…」
「……歯、たてて…」
「、こ…う、か…?」
「そう。うまいよ御剣…」
「しかし、…たれてきて…。喉に…、んん、…」

困ったように手を伸ばそうとするから、その手を止めた。

「大丈夫。そっちはぼくが食べるから」
御剣の上下に動く喉に、食らいつく。 舌で舐めて、吸って。
「、…っ、…? おい、…成歩堂…?」
「いいから、ちゃんと食べて、もったいないでしょ…」
「それは、…そうだ…が…、ん、」
「…おいしいよ、…御剣…、」

少しだけ汗の味と、ミルク味。
ぼくは、なくなってきたアイスキャンデーの棒を離して。
そのまま、ソファーに御剣を押し倒した。

「、なる…、なにを…」
「御剣、…暑いでしょ?」

フリルをとって、そのまま首筋に舌を這わす。

「、っあ…」
「垂れてるから…」
ちゅ、とキスマークをつける。

きっとこれは、夏の暑さに頭をやられているだけで。 御剣があんまり抵抗しないのも、きっとそれが、理由に違いない。
「…白くて甘くて、…みつるぎは、アイスクリームみたいだよね」
「ちが、…やめないか、…こんな、…」
「御剣が誘ったんだよ、ぼくの気持ち、…も、知らないで」
「…きもち…?」
「そうだよ、ほんとにおまえ、昔っから、鈍いんだから。」

そのまま鎖骨にも口づけて、御剣の前を開いた。

「御剣、時間は?」
「…今日はもう帰るだけだ」

こんな状況なのに、正直にいうおまえが好き。
こんな状況なのに、

ぼくをまっすぐに見る、おまえの瞳が好きだよ、御剣。

「、…っう…」

胸の赤いイチゴに、御剣のくわえていたアイスキャンデーを刷り込むようにして。
そのまま下へ…、くぼみにも塗り込む。
「っ、…冷たい、…成歩堂…」
「暑いから、ちょうどいいだろ」

ベルトに手をかけて、一気に引き抜いて、ジッパーをおろして。 そこで、御剣から抗議の声が聞こえた。
「き、キミは、…どうしてこんなことを…、やめ、…」
「だから、アイスの食べ方を教えてるんじゃないかよ」
「、ばかもの…こんな食べ方があるか、…っあ」

まあ、ぼくはアイスよりこっちの方が好きだけどね。
ぱくん、と御剣のアイスキャンデーを、くわえた。
「っ成歩堂!!!」
「…ねえ、御剣、…気づいてないなんて、嘘だろ」
「、…なにを、…っあ、…」
「おまえ頭いいんだからさ、…いくら鈍くても…、ん……これだけ、…されれば、気づくだろ…?」

もう、自分でもなにをしているのか、したいのかが、よくわからなくなっていて、でも、興奮していることだけは、わかっていた、
ぼくも、そして御剣も。

「あ、…っあ」
「こうやって食べるんだよ、アイスは…似てる、だろ?」
ちゅく、と音が鳴るようにして吸って、くぼみに舌を入れると、御剣は気持ちよさそうな声をあげた。
「あ、あぁ、ん…」
「その、声…、…かわいいよ…御剣…」
「っ、は、…っあ、…成歩堂…、キミは、…」
「そうだよ、…ぼくはおまえが、…」

甘く噛んで、何度もくわえて、吸って、舐めて。
「、…な、なるほどう、…っいく、…からはなせ…、離して、…」
「やだよ。飲ませて…」
「っ…や、やめ、…だめだ…、っ…それはだめ、…だっ…あ、っ
…、っあう…っく…んんん…ぅ」
「我慢しないでよ、ほら」
口を離して、指で蛇口を刺激する。
びくん、びくんと御剣の体がはねて。
ぼくは、存分に御剣を味わった。

「ああああ、あ、あ…、ぁぁ…」

ジー…ジー…、ミンミンミン。

蝉の音。

どこかから聞こえてくる、子供たちの声。

ああ、そういえば、今、夏休みに入ったんだっけ。


「…はあ、は、…はあ、はあ…」

「…だ、…、だめだと、言った…」

「…、はあ、…うん…、…」

御剣の泣きそうな声。
頬を朱に染めて、にらみつけてくる。

「でも、おまえ、そんなに抵抗しなかったよね。」
「…、それ、は…」

ああ、ぼくってどうしてこんなに性格悪いの。
謝るところじゃないか。土下座して。許してくださいって。

「ぼくの気持ちに気づきもしないで、そうやって無防備な身体晒してさ。…っ…ぼくは、…」

なんでこんな自分中心な事しか、言えないんだろう。
なんでこれだけ好きな人を傷つけて、それでも、ぼくは。

…おまえが好きなまんまなんだろう。

「……成歩堂…、その、…すまなかった…」
「っ…みつ、るぎ…、ごめ、…違う、おまえは、…っく…、う、…ううう…」

嫌われたくない。いやだ。おまえを失うのなんか、いやだ。
そう。そうやって、おまえに触れてもらえなくなるのが、怖い。

「泣くな…、その、…に、鈍くてすまない…まったく、気づいていなかったのだ…」
「――…ほんき?」
「…うム。…き、キミは、…女性と付き合っていたと、矢張から聞いていたし、私に対しても普通の友人として接していたから…」

…冗談だろ、だいぶこれでも、伝えてきたつもりなんだけど。

「…、…ぼくは、…おまえが、…」

喉に、声が張り付いて、出てこない。
言ってどうする?
今までありがとうさようなら、最後にこんな事をしてすみませんでした?

「―― 聞かせてくれ、成歩堂」
「…、けど、…わかって…」
「ちゃんと、聞きたいのだよ。 キミの言葉で」

だからなんで、そーゆー事、言うんだよ。余計に言いにくいだろ。

「…っ、御剣、が、…すき…、ゆ、友人としてでもいいから、傍にいたい。…もう、こんなことしないから、…だから、…す、捨てないで、欲しい」
「――それから?」
「え…」
「…、それをどうする、成歩堂?」

御剣の視線は、ぼくの…――。

なんで落ち着いてないんだよ。ホント最悪、ぼく。最低だ。

「…、…ひとりでなんとかしてくる。…あの、ホントに、御剣ごめん。…シャワー浴びてって?」
「それがな、立てないのだ。うまく力が入らない」
「っ…、ごめん、…あの、…つれてくだけだから、お風呂場、いこ…?」


「…成歩堂龍一」
「、は、はいっ」

「どうして、私がわざわざ矢張から、キミの恋愛歴を聞いていたのだと思う?」
「…え…」
「どうして、私は真宵くんから、この事務所の合鍵をもらっているのだと思う?」

くく、と…自嘲気味に笑う、そんな御剣が、そこに居た。
「…どうして、…」
「御剣…?」

「、キミだって同じだ!! ちっとも私の気持ちに気づいてはいないではないかっっ!!!」

…こんな風に、御剣が怒りをあらわすのは、本当に珍しいよなあ、とか。頭の片隅で思ってた。
「っみつる…」
「――キミの、一挙一動に、不安になり、それでも、何度も何度も、キミのこの事務所に私は足を運んで、それでもキミは、ちっとも何にも気づいてはいないじゃないかっ!!!」
「…おまえ、何、言って、るの?」

「いつもいつもいつも!! 求めているのは私の方ではないかっ! 何が友人だ、何が傍にいろだ、何がっ――」

御剣。
ごめんね?

そんな風に、泣かないで。


そうっと抱き寄せて、ひく、ひっくと、嗚咽を漏らす彼の背中をさすった。
「一度、黙って――」
「、ふざ、けるっ…っく…な、…私が、どんな、想いで、――あんなあんなあんな、こと、っを、…かってに…、…」
「謝るから」
「謝罪などいらん!!!」

「…じゃあ、どうしてほしいの?」
「っ…、それは…」

「言ってよ、御剣」

「――…、こう、していれば、それでいい」

ぎゅうう、と、御剣はぼくに手を伸ばして、抱きついてくる。
耳元で、まだ小さな嗚咽が聞こえる。

「…ぼくを、見捨てないでくれるんだ?」
「っ…、あ、あたりまえだ」







ああ、どうしよう、本当に夏が好きになっちゃいそうだ。

御剣、おまえが、そんな事言うから。
そんな事、するから。


そんな、嬉しそうな顔で。
「…さっさと、シャワールームへ連れて行きたまえ」



そんな、嬉しそうに言うなよ。

ああ。

ぼくの方がおまえを、好きなはずなのに。