パンドラボックス。



偶然ホテルが一緒だった。それだけ。
鍵はかかってたけど。知り合いだと嘘をついて、借りてきた。
寝顔でも拝んでやろうかな、なんて、悪戯心。

―― でも、のぞいちゃいけなかった、御剣の部屋。
だって。
そこには、ベッドの上で、自慰行為にふけるおまえ。
聞こえてきた名前に、動揺する。
それは。


「へえ、御剣ってぼくが好きなんだ?」

「っえ、…き、キミ、ノックくらいしたまえ…!! 鍵だってかかっていたはずだろう?
その、あ、…ち、違う、のだよ…」
「ふうん。じゃあなんでぼくの名前呼びながら、自慰なんかしてるのさ?」
「それは…き、キミと同じ名字の女性が…いて、だな」
「あはは…それ。おもしろい言い訳」

ドアを開けはなって、ゆっくりと御剣に近づく。
御剣は、身だしなみを整えようと。下半身を隠してる。

「…っ、す、すまない、不快にさせたのは謝る。だから、」
「だから、なに?」
「…いや、…だから、…この…ような、アレ…を、して…」
かわいいな、御剣は。 ―― だって僕の気持ちになんて、ぜんぜん気づいてないんだから。
「ああ。もしかして、脅迫されるとか思ってるの?」
「……」
黙っちゃってさ。珍しいよね。
どうしよっかな。ぼくも好きだよって、言ってあげたら、喜ぶのかな?
「そんな事しないから。ほら、いいよ続けて。…見ててあげよっか?」
「ぅ…っ…」
あらら、泣いちゃったよ。御剣は泣き虫だからなあ。
すぐ怒るしすぐ泣くし。なのに、ぜんぜん笑ってくれない。
しかめっ面で仏頂面の、でも、…愛しい御剣。

「…ぼくが好きなの?」

なるべく優しく、でもまるでこれじゃあ、おまえを追いつめてるみたいだね。
わかってるよ、ぼくは…きれいにおまえを愛せてない。
泣かせて、ぐちゃぐちゃに犯して、懇願させて、
ぼく無しじゃイケない体にしたい。ぼくで汚したい。
こんなことばかり考えてるって知ったら、軽蔑されそう。

「…、あ、…ああ、…すき、だ…、ごめ、…ごめん、なるほ…どう」
「うん。よく言えたね、えらいよ御剣」
更に近づいていって、おまえに触れ、ゆっくりと頬をなでて。
「じゃあ…ご褒美、あげるね」
ちゅ、と口づけた。 御剣は硬直したままだ。
「手伝ってあげる」
御剣の半身に触れて、先端をなでると、びくん、と御剣の体が戦慄いた。
ちいさく喘ぐ、声。
「、…気持ちいい?」
「…、あ、…成歩堂、…ど、…して…?」
「それはね御剣。ぼくはおまえに好意をよせられても、ぜんぜんイヤじゃないってこと。…同じ気持ちだよ」
「…ぁ、…とに…?」
「本当。だからいいんだよ、このまま身をまかせてくれれば」
「ぁあ…、なるほど、…う」

ほら、早く。
ぼくのところまで、墜ちてきてよ、御剣。
日の当たる場所に帰してあげられないかもしれないけど。
ちっとも、それを悪いと思えないぼくの元で、ずっと、ずっと、ぼくだけを求めて、生きていってよ。
ぼくだけが、おまえだけを、支配する。
―― そんな世界、すてきだと思わない?

「かわいいよ…御剣。」
「っん…成歩堂…、あ、あ、う…ん…」
「ここ、こんなにしてさ…ぼくだから、感じてるの?」
御剣はうなづくと、ぼくに顔をすりよせてくる。
だから髪をなでて、キスをしてあげよう。たくさん、キスをしてあげよう。
「ねえ、どうされたいの。なんでもしてあげるから、言ってごらん?」
「え……、あ、…それ、は…」
「すぐには言えないくらい、いやらしい事、してほしいの?」
「…ち、違、…私は、そんな、キミと、その…」
困惑した瞳。
でも。動揺してる。ほら、少しだけ期待の色が見え隠れしてる。
御剣自身の先を、軽く擦ってあげると、甘い声が漏れた。
はあ、はあ、という荒い息と、鼻にかかる、ん、と言う声。
ぐちゃぐちゃに、愛してやりたい。
どろどろに溶かして、やりたい。
ぼく以外見えなくさせたい。 ああ、ぼくは…どす黒い。

ごめんよ御剣。きれいに愛してやれなくて。

「ぼくはしたいよ、おまえの中に入りたい……セックス、したい」
耳元で囁いて。
自分の指を、御剣の口元に寄せる。
「…、あ、…ぁ」
半開きの口から見え隠れする赤い舌。
唇を、2回、なでる。
「濡らして、御剣。…舐めて?」
「、…わか、…った…、あ、…ちゅ、…ぅん…」
唾液でべたべたになった指で、そっと頬をなでる。
「ねえ、御剣…、四つん這いになってくれる…?」
「っ…、…え、…」
「慣らしてあげるだけ。さすがに今日、一気には無理だろうから、ね。
……恥ずかしい?」
「いや…その……、だな…、」

御剣は、だいぶ時間がかかって、なんとかぼくに、背を向けて。
犬のように、ベッド上で這い蹲る。

「…大丈夫だよ。優しくするから」

言いながら、緩んでいたパンツを、一気に引き下ろす。
白い肌が、眼前にさらされる。
「…っ…、あ、…成歩堂、…その、むりはしなくても、
…こんな、…っ…え、あ、…あああ、…っ??」
「…御剣…」
「な、るほ…どう…や、…やめたまえ、…まだシャワーも浴びていない…! …き、汚いだろう…?」
「そんな事ないよ…、御剣だもん。」
「…っああ、…う、うう…」
「それに、舌、きもちいい…」
「や、め……っ」

震える腰をなでて、背中をなでて、左手をのばして、性器に触れる。
そうしてしごきながら、舌と指で、御剣を解していく。
「なる、ほどう、…あ、ああ…」
「…ん…、1本入った…。意外と、…受け入れてくれるものなんだね」
「あう…、っう、あ…」
「さて、と…どこかな?」
中を探る。そんなに奥じゃあ、ないと思うんだけど。

「ぅ、…は、はぁ………、…ぁアッ…!!?」
「あれ…、御剣、どうしたの?」
「いや、なんでもない…なん、でも…や、…ッ…!…う、…あ、ァ…っっ」
「なんでもないの?」

後ろ頭が揺れてる。腰が砕け始めてる。
可愛い。気持ちいいの、認めたくないのかな?
男はみんな、そうなのにね。
わざと、そこばかり責め立てると、御剣は甲高い声で鳴いた。
「…ねえ、御剣、…腰が揺れてるよ?足が震えてるよ?
おまえの性器、…こんなに、べとべとだよ?」
「…っあ、あ、…ごめ、…成歩、どう、…すまない…っこんな、
醜態を、…あきれ、ないで…くれ…」
「…うわ…、ちょ、…煽らないでよ…」
一気にしたくなっちゃうよ。
そーいう台詞に弱いんだから、ぼく。
かわいそうだから、いじめるのはこれくらいにしてあげよう。
プライドをあんまり傷つけないように、なるべく前だけでイカせてやる。
数秒で、御剣は白濁を吐き出した。
そうして、ベッドに力無く、突っ伏す。
その背中に、キスをおくる。
きっと世界一可愛いね、おまえ。

「大丈夫?」
「…あ…ああ…、へいき、だ…」
「ぼくは、大丈夫じゃないんだけど…御剣、…なんとかしてくれる?」
「…っ…ああ、勿論…、だ……」

御剣は惚けた顔のまま、こっちに振り向く。
きっと見えているだろう。服の上からでもわかるくらい、ぼくは反応してる。
だってそりゃもう、こんな御剣を見せつけられて、たたなかったら男じゃないでしょ。

「御剣、…しゃぶって?」
「……ああ…わか、った」

御剣は潤んだ目でぼくを見る。 ジッパーに、震える指先が触れた。
そうして、雄が現れると、きれいな顔で、グロテスクなそれを、銜えだした。
赤い舌が、先端に触れる。
「…ん、…ちゅく…、ちゅ、…」
「うん、…御剣、…いいよ…、きもちいい…っ…」

本当は、つたなくて。
でも、慣れてないそれが、よけいに興奮する。
背徳感が入り交じって、でも、ぼくは、御剣の髪をすいていた。
一生懸命に、ぼくに奉仕するおまえなんて、昨日までじゃ、想像できない。
ぼくの事を、好きだなんて。なんて可哀想な、御剣。
こんな。
こんな、ぼくを、どうしておまえは好きになっちゃったの?
かわいそうにね。
だから、髪をなでる。頬をなでる。

「御剣、無理しないでいいから、ね…」
「…、…っは、…」
「苦しいでしょ?そんな奥までくわえたら、吐いちゃうよ?」
「…、ん、うん…、わ、…かった…」
「ちょっとだけなめてくれたら、いいから…疲れたら、やめていいから」
「…それは…、ん…いやら…」
「…ええ…? ちょっと、…」

御剣は、そういえば負けず嫌いだっけ。頑固だっけ。
…こんなベッドの上でも?
そう思ったら、ちょっとだけ笑ってしまった。
「…っ…う…、下手、だろうか…?」
不安そうに、おまえが上目遣いで見上げてくるから。
そんなことないよ、と、頭をなでる。
「ちょっとずつ覚えてってくれればいいし。」
「…、…成歩堂」
「なに?」
「…それは、これからも、私がキミを、…好いていてもいいと、いうことだろうか…?」
だから、どうしてそう、煽るようなことを。
しょうがないなあ。
「…うん、ぼくを好きでいてよ」
本当は、嫌ってほしい。
「、…成歩堂…」
そんな、うれしそうな顔、しないでよ。

「どうしよう、御剣…、急ぎたくないのに、絶対無理だってわかってるのに…、おまえがほしい」
ほら、ぼくは最低の人間。

「……、か、かまわない。これでも体は鍛えてあるのだよ」
御剣は、言葉の意味がわかったのか、顔を朱に染めた。
「じゃあ、もうちょっと慣らす、から、…仰向けで寝て」
「…、わ、わかった」
「ちょっと、ぼく一回いっとく。…待ってて」
「あ、…それは私が…」
「いやいい、ごめん」
御剣にまかせてたら時間かかるから、という言葉を飲み込んで。
ぼくはさっさといくと、その体液を、御剣の陰りに塗り付けた。
「…あ…成歩堂、の…」
「そ。ぼくのでごめんね」
「…いや、…その、…うれしい、のだよ…」
「だからもう、煽るなってっ…優しくしたいんだからさ…」
「、ム…女性ではないのだ、紳士的でなくてもいい」
「へえ…、言ったね、御剣。 後で痛くて泣くよ?」
「う…それは、困る」
「そう、困っちゃうでしょ。…だから、かわいく鳴いてて?」

へら、とぼくはわざと安心させるように笑みを作って、
また指を忍ばせた。
今度は2本…入る、かな?
びくり、と御剣は硬直する。
「力、抜けない?」
「…う…、すまない…」
「いいよ。可愛いし、初心者って感じで」
もう一方の手で、御剣の胸をなでる。
そこにある二つの飾りが目についたので、ちょっといたずらをしてみた。
「成歩堂、私は、男だ」
「わかってるって。ちょっとだけ」
指先でなでて、軽く摘みながら揉むと、はあ、…というあえぎが聞こえる。
感じやすいんだ、御剣って。雰囲気に飲まれやすいのかな。
爪を押しつければ、跡が残る、御剣は顔を少しだけゆがませた。
「痛い?」
「…いや、そんな、には…」
「じゃ、ここは?」
指を下ろしていく。くぼみがひとつ。
ぼくは自分の唾液を塗り付けて、そこに入れた。
びくり、と御剣の腹がはねる。
「…ぅあ…」
「…感じる?」
「…、…っ…、うう…」
ちょっと痛いだろうな、というくらい、乱暴に指で蹂躙すると、
御剣の目から涙があふれた。

ああ、いじめたくてしょうがない。
ああ、やさしくしてやりたい。

相反して矛盾する気持ち。

どっちの御剣もみたい。

痛みに仰け反る姿も。
感じて、縋る姿も。

「御剣、…すきだよ」
「…、あ、…わ、たしも、…」
「うん。だから、…ちょっとだけ、ひどくしてもいい?」
「かま、わない、…キミが、そうしたい、なら…」
「…じゃあ、…どっちにしようかなあ…?」

ねえ、御剣、どうしてこんなぼくを。愛したの?
…愛されていい人間じゃないのに。

「、…あ、キミの、好きに、…、あ、っ…あ…」

指は2本入っていた。まだ、すべては無理だ。
きっと本当はもっと先の話。
まだまだぼくを、受け入れられる状況じゃない。
頭ではわかってる。
切れて血がでるだろうことも。

そんな御剣は見たくない。

でも。

ああ、…

…どうしたいんだろう、ぼくは。

御剣。
御剣。

ぼくは、おまえの、…笑った顔が、一番好きだよ。
だから。

「嘘だよ、…今日はしない」

苦し紛れの嘘を重ねて。
そうっと指を抜いた。

「…成歩堂…?」
「これくらいにしようか。 もう一回くらい、イキたい?」
「いや…、…したまえ、成歩堂」
「だめ。けがするよ。」
「かまわない」
「…だめ。…血ぃでるんだよ」
「…っ…、か、かまわない」
「…っもう、…わかれよ、御剣 。…あ」

御剣が、抱きついてくる。
頬をすりよせて。

「…きみのものに、なりたいのだよ」

ああ、ぼくは悪くないって言いたい。
…だってこんなの、卑怯だ。
…だってこんなの。

…まるでふつうの恋人同士の会話じゃないか。

「…っ…、御剣…!」

理性が飛ぶ。

そのまま、獣みたいに押し倒して。立ち上がって、部屋を見回して。
近くにあったローションを御剣の体に、乱暴にかけて。
空っぽの瓶を後ろ手に投げ捨てて、
御剣に覆いかぶさって、足を開かせて。
3本の指をねじ込んで。 慣らす、ただ、慣らしていく。

「あ、…、…なる、なるほど…っう…あ、あ、…っ」
「ぐちゃぐちゃ言ってるよ御剣。ねえ、ぼくをほしいって言ってるみたいだ。そう聞こえるんだ。…だから言ってよ、御剣言って…」
「…あ、ぅああ、…あ、…すき、だ、成歩堂、…、あ、
ア、……っ…ほし、キミが、ほしい…っ」
「っ、言ったね。」

こんな、御剣の声を聞いてさ。
その後15分も耐えたぼくを、ほめてよ、神様。

愛してるんだ。
ちゃんと愛してる。

御剣が、いとおしい。

「なるほどう…っ、も、はやく、はや、く…頼む、から…」
「…わかってるよ…、ねえ…、おかしくなってよ、御剣…っ」

どうか。
どうか、ぼくのところまで、
もう少し、墜ちてきてよ。

抱きしめて、あげるから。

「う、あああああ、あああ、あああぁっ――…っ!!!」


それは、悲鳴に近い。

御剣の髪が、汗の滴で濡れてる。
御剣の頬が、上気して濡れてる。
涙で、濡れてる。

それでも必死におまえはしがみ付いてきて。
痛みでどうにかなりそうだろうに、しがみついてきて。
抵抗もしないで。
「あ、あう、あ、ああ、や、や、…っあ…あぐ、…うううう…」

決してそれは、甘い声じゃなくて。
苦しそうで、痛々しくて。
なのに。
涙がでそうなくらいに、うれしい。
受け入れてくれて、うれしい。
「なるほ、どう…? 成歩堂…」

ぼくの名前を呼んでくれて、うれしい。

「うん、うん…、御剣…ごめん、痛いよね、ごめんね」
髪をなでて。頬にキスをする。
「……、想像、以上だ…」
困ったように笑うから。 動きを止めた。
びくびくと、御剣の体が震えている。
そうっと、せめてもと、性器をなでた。
「あ、…っ…」
「御剣、…ごめんね」
「、ちが、…あ、あん…」
「もう動かないから、今日はこっちで気持ちよくなって?」
「…あ、…いいの、だよ…きみ、の好きに…っん…」
「もう充分もらったよ。…これから、ゆっくりでいい。 ―― つきあって、くれる、だろ…御剣?」
「ああ…。成歩堂、…、いいの、か、私で…」
「御剣が、いいんだよ。…知らなかったの、おまえ。
ずっと、…おまえだけを追ってたのに」
「…、成歩堂」
「好きだよ。愛してる。恋しい。愛しい。全部、おまえにしか向いてない、ぼくの感情、全部。」
「じゃあ、…注いで、くれ…」
御剣は手をのばして、ぼくの頬に触れた。
ちょっとだけ痛みにゆがんだ顔で。

でも、笑ってる。

「御剣…、」
「もっと、キミをわかりたい。…ここを、知りたいのだよ」

そうして、手がぼくの胸に降りていく。 心臓、
いや、心?

「…きっと、後悔するよ?」
「しない。誓ってもいい。 私は、キミを愛している」

「っ…、…本当、に、…?」

御剣が触れているそこにはね。
おまえに対する、感情が混ぜこぜに入ってるんだ。
全部全部、おまえがほしいから。
それをそこに押し込めて、鍵をかけてあるんだ。

だから。さ。
開けたらいけないパンドラの箱。

「…ああ。だから、キミも、…愛してくれ」

なんてきれいに、笑うんだろう。

だから。
もう、なにも考えずに。

ただただ、自分を押しつけて、突き上げて、追い上げて、
「あ、ああ、っあ、…なる、、…ほどう、あ、あ…っっ」
「御剣、…御剣、…、好き、…大好き…、もっと、…もっと…っ」
「、い、っっ…っく、…あ、…ふ、…ぁあっ…っあ、あ!!」

抱きしめて。1ミリの隙間もないくらい。
ひとつになりたい。混ざりたいんだ、いっそ。
愛している。

ゆがんだ愛情。でも、愛してる。
これがぼくの、愛し方。

「…御剣、おまえだけ、でいい…」

「…成歩堂、あ、あ、…っく、いく、…いって、しまう…」

「うん、いこう、一緒に…」





甲高い声を上げて。
気を失ったおまえに、キスをおくる。


親愛でも情愛でも、ない。

そのまま抱きよせて、ただ、ふたり、眠る。