御剣怜侍の告白。





御剣が、5日前、帰国してきた。
それは、半年ぶりのことで、てっきりぼくは、その足ですぐにぼくに会いに来るんだろう、と思っていたんだ。
だから、メールくらいでしか連絡をしてなかったんだけど。
2、3日ならわかるよ。でも、今日で5日め。
御剣は、ぼくに会いに来ない。

御剣は、
ぼくを好きだと言い残して、異国へ行ったのに。

返事は、帰国してからでいい。そう、言われた
だからぼくは考えていた。
なにをかって?
御剣に、どうやって自分の今までの愛を伝えてやろうかって。
だってさ。彼はきっと、最近ぼくへの気持ちを自覚したんだろ?

「…なに言ってんの御剣、ぼくはもうずっとおまえに恋してたのに」



それで、今、現在、御剣のマンションのドアに寄りかかりながら、
彼の帰りを待ってるんだけど。
あ、ストーカーみたい、とか思わないでね。
ちゃんとメールしてあるし。…まあ、まだ返事返ってきてないんだけどね。
いいだろ、親友なんだし、ちょっとくらい。


そうして、御剣の帰りを待ってたんだけど。
もうかれこれ、1時間半。だよ。
今、何時だと思う? もうそろそろ終電の時間なんだよね。
はあ…、仕事の鬼っぷりは、相変わらずだな。

「しょうがないか、今日はあきらめよう」

手に持ってたビニールの袋を、ドアノブにかける。
中身はビールとか、おつまみとか、そういう系。意外と御剣、なんでも飲むし食べるんだよね、甘栗とか好きだし…お酒には合わないと思うんだけど。

ケータイでメール作成画面。
「…そろそろ帰るね、また今度飲みに行こう」
ってとこかな。

うん、ちゃんとわかってるつもり。
御剣は、ぼくを避けてるんじゃないかな。

「…向こうで他に好きな人、できて、告白した手前、顔が合わせ辛かったのだよーー、とか?」

かんかんかん、と階段を降りる、エレベーターには乗らない。


「別にそれならそれでいいんだけど。…親友でいられれば。
それで、いいんだけどな」

でもちょっとだけ、考えてみてよ。
御剣に告白されたときのぼくの気持ちとか。
だってさ、あいつ、空港で、耳打ちみたく、告白したんだよ。

返事なんてする余裕、なかった。
ざわざわと周りはうるさくて。

冗談なんじゃないのかって、そればかり。

だってそれから半年、おまえがよこしてくるメールは。
ただの親友としてのもので。
…こっちが拍子抜けしちゃうよ。

「…おまえのそばにいられるんなら、なんだっていいんだ」



好きだ。好きだ。好きだ。
愛してる、愛してる、愛してる。

おまえだけを。

ずーーーっと。

「……やっぱぼくってストーカー体質なのかなあ」

言っててへこむ、
どこからどこまでが犯罪なんだっけ。あー、ぼく。
…疲れてんのかな、それとも。ただ、御剣に。
そうだ、ただ、御剣にあいたい。
あの、愛想のない眉間にシワのよった親友に、あいたい。
言おうと思ってたんだ、電子メールなんかじゃ、いやだったんだよ。

ちゃんと、声を出して、伝えたいんだよ。




「……な、成歩堂っ!?」


「…御剣」


「キミはなにをして…」

「…いや、メール送ったでしょ」

「す、すまない、電池が切れてしまっていたのだよ。
く、くるならくると、…あ、…あの、だな、その…」

うわあ、なんだよ。なんだよおまえ、その動揺っぷり。

「おかえり、御剣、お疲れさま」

にっこり笑う。

「…あ、ああ、…家に寄っていきたまえ。……た、ただいま…」
「うん。 じゃあ、ちょっとだけおじゃましようかな」


終電、終わっちゃうなあ。
どうしようか。

まあ、いいか。

だって御剣、うれしそうにしてるし。
なんだよ、5日間も、ぼくを放っておいたくせにさ。
なんだよ、半年ぶりの再会だって、いうのにさ。


「…御剣」

「、な、なんだろうか」

「返事、しにきた」

「っ…、あ、…そう、だったのか。…その、…だな。 め、迷惑なら本当に、…し、親友を、…やめても…」

かんかんかん。また、階段を上る。
うしろからは、御剣の、震える声。

うん、こわいよね。
ぼくだって、そうだよ。

ずっと。ずっと。ずっと。好きだったんだ。

ずっと、こわかった。

親友でいよう。相棒でいよう。幼馴染で。ライバルで。 そんな関係でいよう。
おまえとずっと、一生。なんらかの関係を持っていたかったから。


御剣が、ドアノブにかかっているビニール袋をとった。すまんな、なんて言ってる。
そうして、鍵をあける。

「お邪魔します」
「ああ、はいりたまえ」

―― ガチャン。

ドアが、しまった。



「御剣」
「…な、なんだろうか」
「帰国してから、ずっとぼくを避けてただろ」
「…いや、…その、久しぶりの帰国で、仕事が立て込んでいたのだよ」
「…ふうん」
「っ…、…いや、3日目までは、そうだったのだが」
「じゃあ、あと2日は? 事務所にさえ顔、出さなかっただろ」
「………って、怖かった、のだよ…」

「…」

「…勢いでした告白で…、キミを、悩ませて、…しまったと、
後悔した。…わ、忘れてくれてもかまわない…」

鉄製のドアに、背中からよりかかる。冷たいな。
電気をつけてないから、御剣の表情はわからなかった。

気持ちは、変わってないみたいだな。
そうして、御剣の告白は。 冗談でも、なかったみたいだ。

「悩んだよ」
「、そう、だろうな」

「…御剣、ちょっと、こっちきて」
「……え」

「ぼくの腕の中にきて。 早くおまえを、抱きしめたい」
「…っ…。」

「返事、ききたいんでしょ」
「……、あ…」

御剣は、2分かかってようやく、ぼくの方へ歩み寄ってきた。
まだ、玄関先だけど、いいか。 どこだっていいか。

「…な、成歩堂…、その…」
「一生忘れないよ。だって御剣からの告白だ」
「っ…」

そうっと、おまえに触れる。
びくん、と硬直して、うろうろと視線がさまよって。

「御剣、もう一回、ぼくに告白してよ」
「……ぁ……、その、キミが、好きだ…」
「うん」
「……返事を、聞きたい、のだよ…」

震える身体を抱きよせた。ちゅ、と髪に口づける。
「ぼくも、御剣が好き」
「………っぅ…」

嗚咽が聞こえた。
本当、おまえ、泣き虫なんだから、…しょうがないなあ。

「すごーーく好き。ずっと、ずっと、好きだったよ。御剣」
「……、ぅ…っく…」
「キスしてもいい?」
「っえ…」

御剣の唇はちょっとだけ、かさついてた。
ぺろり、と舐める。

「…あ…」
ついでに頬に流れてる涙も。
しょっぱいなあ。

「…ねえ、もっと、していい?」

「…、…ああ」

こくん、と、御剣はうなづいた。






御剣が、5日前、帰国してきた。
それは、半年ぶりのことで、てっきりぼくは、その足ですぐにぼくに会いに来るんだろう、と思っていたんだ。
だから、メールくらいでしか連絡をしてなかったんだけど。
2、3日ならわかるよ。でも、今日で5日め。
御剣は、ぼくに会いに来ない。


だから、ぼくから会いにきた。

御剣怜侍からの告白。

ぼくの回答は、決まってる。

はじめから、決まってたんだよ、御剣。