合鍵 〜成歩堂龍一の回答。〜 (前編)





「…、ん…っ…、は、…ぁ…っ」
少しだけ開いた唇に舌を忍ばせると、御剣がぼくの腕をつかんだ。

戸惑ってる、わかってる。だって、御剣ってそういうやつだから。
もともと恋愛は得意じゃなさそうだし、夢へ一直線。 仕事より大事なものなんてない。 オーバーワークもなんのその、
当たり前のように飛び回る、日々だから。
だから、ゆっくりしようって思ってるんだけど。理性と本能の葛藤で、後者が勝ちそうになって、困る。
髪を撫でる。 これは、御剣じゃなくて、自分を落ち着かせようとしてるんだ、と思う。

「深いのは、いや?」
それから、一応確認する。 だって嫌われたくないし。
御剣が、ぼくを好きになってくれただけで、奇跡なんだから。

「…いい…、キミなら…ば、かまわない」
「…煽るね」

どうしよ、もう、限界きてるんだけど。 身体は正直だよね。
一回離れないとダメだ。きっと傷つけてしまう。玄関先でそんな事は、したくないし。
落ち着け、自分。 一度深呼吸をした。


「御剣、部屋、入っていい? ほら、ビールも冷やさないと。」
無理やり話題を変えた。 御剣の手から、ビニール袋を受け取る。
「ああ、…かまわない」

ほら、御剣、ちょっとだけほっとしたような顔をしてる。
そうだよね。恋愛下手な御剣のことだし。
あんまりにもさ、展開が、夢みたいだから。 なんだか本当、自分を見失ってしまいそうになる。

電気をつけないまま、御剣はそのままリビングへ歩いてく。
そうして、冷蔵庫を開ける音と、閉まる音が聞こえる。

「喉が渇いたな。その、一杯やるか?」
「…ううん」

なんだかね、その一瞬だけでさ、おまえが親友に戻ってしまったような気がして。

本当、情けないんだけど。

すぐに、気持ちを確認したくなる。
だから、後を追って、目の前に立った。


「御剣」
「どうした?」

「…ちゃんと、聞いてた、返事?」
「…ああ」

「好きだよ」
「…、私も…、だ…」

どうすれば、不安じゃなくなるかな。どうすれば。
頭の中の葛藤なんて、億尾にも出さずに、へらっと笑う。

「もうちょっとうれしそうな声、出してよ」
「……す、すまない…信じられなくて、な」

「じゃあ、セックスしよう」
「っ…え…」
「信じたいんだろ。」
「…し、しか、し、心の準備が、…それに、…あ」


背中から抱き寄せる。 ぐり、と、下半身を押し当てた。

「おまえに欲情してるの、わかる?」
御剣は言葉はなく、ただ、何度かうなづいた。
「…会いたかった。…さみしかったよ」
「…」
「……したい」
「……っ…、…」

御剣は、こくん、とうなづいた。 これって肯定なのかな。そう思って、いいのかな。
耳朶を舐める。
「ひ、…」
舌を入れる。
「…っ…あ、…成歩堂…、」
「…御剣…」

ささやくと、御剣の身体から、力が抜けた。
そうっと、御剣の熱を探ってみる。触れると、少しだけ反応してた。
「あ、やめたまえ…」
「御剣は、したくない?」
「…、いや、そのような、…」
「……」

言葉を、待つ。
だって、せっかく両思いになれたのに。無理強いなんて、冗談じゃない。

「……っ…してく、れ…、…」
「うん。御剣、…大好き」

「…っあ、…ぅ…ん」
音を鳴らして、ジッパーを下げて、中に指を入れる。

「、あ、…っ…」
「…熱いね」
「…う、…ぁ…」
片手で御剣を支える。
「立てる?」
御剣は、首を横にふった。
「じゃあ、座ろう」
ぼくはそのまま、御剣の手を引いて、ソファに座らせた。
「…、成歩堂、…その、……」
「なに?」
「き、キミは…?」
「まだ平気」
そう言って、傅いて、御剣の熱にもう一度、触れる。
「、う…ん…っ」
「……御剣」
「…?」
「…指と、口、どっちがいい?」
「…っ!!」

「…ごめん、下世話だったかな」
「……っ…、………、く、………口…」
「…りょーかい」

探って取り出して、そのままくわえた。 冗談みたいだ、 だって、御剣にさ、こんなことしてる。

「ぁあ…」
甘い声。かわいい、な。 低くて、でも擦れてて、喉に、張り付いているような。
「…っ、ぁは、…っ…」
音を立てて、吸う。舐める。
「なる、なるほ、どう…、あ、…あ…」
どこへ手をやったらいいのかわからないのか、御剣はソファーをぎゅう、とつかんでいた。
「…っ、…あ、…っく…」
震える下肢。
「、あ、あ、…っあ、…っ!!!」

早いな。 ちゅく、と白濁を舐めとって、口にあふれたそれを、御剣に塗り付けた。

「…あ…」
「御剣、へいき?」
「…ああ、問題ない」
「じゃあ、ぼくちょっとトイレかりてていい?」
「…、…私も、…したほうが、いいだろうか?」
「ううん、お誘いはうれしいけど、御剣そんなテンションじゃないし。いっぱいいっぱいでしょ。 いいよ、してくる」

へらっと笑って、トイレへいこうとすると、腕をつかまれた。
「……そんなテンション、だ」

「……、…いい目、してるね」

とろけちゃいそうだ。









床に寝そべってるぼくに、御剣は奉仕していた。ちゅく、ちゅく、…と、いやらしい音がリビングに響いてる。夜風がカーテンを揺らして、
月明かりで、御剣の髪が光る。
なんか、夢の中みたい。 消えてしまいそうだから、髪に触れた。

「…御剣…」
「…ん、…なん、だろうか…」

「……どーしよ、すっごい、きもちいい…」
「…ふ、…そうか」

「ねえ、御剣」
「なんだ?」

「どうして、告白してくれたの?」
「…、…ああ、言いたくて。…たまらなくなった」

「いつから?」
「…22、くらい…か」
「そう……、っええ!?」

それって…、今、だって、ぼくら26だぞ。
4年間も?

「嘘…、だって、おまえ、…」
「偶然だがな…街でキミを見かけた、すぐにわかった、矢張といたからな。」
「…声、かけてくれればよかったのに」
「できるはずが、ないだろう…」
「……」

「再会して、キミと戦い、…、そうして、最後に救われた。 
もう、それ以上望む事はしてはならない、と、そう心に決めて、…しかし、できなかった。
キミは、…、私の、…っ…わ、たし、に、…会いに…、弁護士、にまでなってくれて――」
「御剣ごめん、泣かないで…」

そんな声を出させたいわけじゃないんだ、そんな顔で泣かせたいわけじゃないんだ。

起き上がって、そうっと震える肩を、抱きよせる。

「キミ、にだけは、こんな私に気づいて欲しくなかった。 キミの前でだけは、――昔の、私のままで、いたかった」
「…ぼくを、救ってくれた御剣?」
「そんな大そうなものじゃない。 昔の、キミの幼馴染のままの、自分でいたかったのだ」
「御剣…」
「1日1日、キミといる時間が、増えて。親友として、一緒にいられる時間が増えていって。
まったく昔と変わらないキミの笑顔が。そこにあって。――…っ…、そのたびに、心が、惹かれて、勝手に、…もう、
止まらな、くなって、いったのだ…、…すまない、成歩堂、私は――」
「だから、なんで、謝るのさ。…なんで、泣くんだよ。 ぼくは、…ぼくだって、ずっとおまえが好きだったんだよ?」

もうなんだよ、なんでこんなに、可愛いんだよ。
ずるいよ。 これ以上おまえを好きになるなんて、思わなかったのに。

「成歩堂――…」

ぎゅう、と抱きついてくるから。背中を撫でた。
「…ねえ、御剣。 素敵な告白のお礼にさ、いっぱいいっぱい、気持ちよくさせてあげる。
…愛してあげるから、…ベッド、いかない? ぼくもう我慢できないよ。」

ちょっとだけ冗談まじりの口調で、安心させるように髪にキスをして。
ぼくの誘い文句に、御剣は、ちょっとだけ笑った。
うん、やっぱり笑ってるほうがいい。

「ぼくはおまえのものなんだから、いくらでも欲しがってよ。」
ちゅ、と軽く口付けると、御剣はもう一度、嗚咽を漏らした。








御剣の部屋のベッドは、セミダブルだと思う。
ぼくはシングルなんだけど。やっぱり、170を軽く超えてるぼくらは、これくらいがいいよね。

御剣はカタン、とベッド脇にある小さなガラステーブルに、水の入ったグラスを置いた。
水分補給しないとね。いっぱい泣いてたし。…まあ、これからもっと泣かせてしまうと思うんだけど。

「あのさ、御剣ー…」
「、な、なんだろうか…」
「…ローション、ある?」
「いや、…ないな。」
「じゃあ、…オリーブオイル…とか、ある?」
「……ある、…が、何に使うのだろうか。まったく意図が解らないのだが――…」

え。
「み、御剣、――え、ちょっと待って、…セックスの仕方、わかってる??」
「…ふ…、キミ、いくらなんでも私を馬鹿にしすぎではないだろうか。さっきもしていたではないか」
「――…うわ。」

ちょっと待って、あーダメだコイツだって、検事の勉強しかしてこなかったようなヤツだもん。
し、知らないんだ。 どうしよう、嫌がったら。

「御剣、ちょーっと、こっちきて」
ぼくの声に照れつつ、御剣はベッドの上に座った。

「なんだろうか」
「…女性とのセックスの経験は、ある?」
「もちろんだ。 2度もある。」

…いや…、も、…って。 今26だぞ。
でも、ちょっとジェラシーかも。
いやぼくもそれなりに経験してるから、いいんだけどね。

「じゃあ、男性は?」
「あるはずがないだろう…。私は、キミだから、好きなのだよ」
「――…、耳、かして」

そっと、なんていうか、男同士のセックスの仕方を、耳打ちしてみた。
反応が、怖い。
だって、ほら。
御剣怜侍氏、硬直中。

「…ってわけなんだけど、…大丈夫そう?」
「―― 成歩堂、矛盾しているのだよ。…入るわけがない」
「…ああ、これ?」

戦闘体勢に入ってる、ぼくの熱身に、御剣は目を向ける。
ごめんね、だいぶ平均値より上なんだよね。はは…。
「…無理だ。どう考えても。」
「うん、いや、…もしキツかったら、少しずつ、時間をかけて、愛していこうかなーって」
「私は明日も仕事だ」
「それは、ぼくも、なんだけど…」

そうだよな。あんまりにも一気に幸せがきちゃったからさ。
冷静じゃなかったかも。ぼくらしくないな。
「…うん、じゃあ、今夜は少しだけ――」
「だが、キミが、できるというのなら。…できるのだろう」

真っ赤になったまま、御剣は、ちょっとだけ顔を伏せた。
やば、もっと平均値より上がっちゃうんだけど。

そのまま、ベッドに押し倒した。

「御剣…、好きだよ。」

なんどでも、おまえの気持ちに答えよう。
これ以上ないって位に、大好きな御剣だけど。
簡単にそれを超えて、おまえはここにいるから。

「…成歩堂。 もっと、…傍に来てくれ」

彼の瞳に自分が映っていることが。

これほど嬉しい、なんて。













後編へつづく。