御剣は春になると、機嫌が悪い。 たぶん、花粉症だからだと思うんだけど。 そんな時、ぼくは彼の機嫌を上昇させる為に、プレゼントしているものがある。 それは。去年から、なんだけど。 『ストロベリー・スイート・シュガー』 「みーつるぎっ」 「今、近づかないでくれたまえ」 うわ、今年も壮絶に機嫌が悪いなあ。 薬はもらって飲んでるらしいけど、涙目だし、顔は赤い。 ぼくは花粉症じゃないから、それがどれだけ苦しいか、わからないんだよね。 「…御剣〜、ちょっとだけこっち向いてよ」 今、御剣はぼくのマンションにいるんだけど。 ごろん、とぼくのベッドで、ふて寝してる。もちろん、壁に向かって、こっちなんて全然見てくれないんだよね。かれこれもう、40分はそうしてるんじゃないかな。 「みつるぎー、ねえってばー」 「…眠らせてくれたまえ。」 「まだ20時だよ? もう寝るの?」 「……むう」 しぶしぶ、御剣はぼくの方を振り向いた。 その瞳にたぶん映ってるのは。 「じゃーん」 にこっと笑って、手の中にあるものを御剣に、差し出す。 それはね。 「成歩堂」 「イチゴだよ。御剣、好きでしょ?」 「うム…」 眉間に寄ってるシワが、ちょっとだけ緩和されたみたい。 よかった。 少しは機嫌、上昇中? 「随分、沢山あるのだな」 「うん、お買い得だったんだよね。食べるでしょ?」 「…ああ、いただこう」 御剣はベッドから降りて、キッチン兼リビングへ歩いていこうとする。 その、腕を取った。 御剣が振り向く。 「なんだろうか」 「…だいたい、わからない?」 へらっと笑って、御剣の手の甲に、キスをした。 だんだん、御剣の顔が、赤くなっていく。 気づいちゃった? 「…………、キミという男は…」 「御剣ぃ…ベッド、戻ろう?」 「……はあ。」 御剣は、いくら機嫌が悪くても、なんだかんだ、ぼくとの触れ合いの時間は、大切にしてくれてるんだよね。 そんなところも大好きだよ、御剣。 全部、大好きだよ。 「前にもこんなような事があったような気がするのだが…」 「そうだっけ?」 多分御剣は、前回のケーキプレイの事を言ってるんだろうなあ。 あれも楽しかったんだよね。 ため息を何度もつきながら、それでも御剣はベッドへ座った。 そうして、ぽん、とすぐ横を叩く。 「きたまえ」 「うん」 ぼくは横に座る。 御剣を近くで見ると、やっぱり顔が赤くて。 でもそれって多分、花粉症のせいだけじゃないよね。 「キスしていい?」 「…うム」 ちゅ、と軽く口づけて、それから、御剣の口に、持っていたイチゴを、銜えさせる。 「…肌が白いから、やっぱり御剣は、赤が映えるね」 「、…む、…ぅ」 イチゴを銜えているからしゃべれないのか、御剣は恨めしそうな目でぼくを見てた。 そんな顔もかわいいから、好き。っていうか、全部、大好きなんだけど。 「食べていいよ」 頬をなでながらぼくが言うと、御剣はぱくん、とイチゴを咀嚼した。 白い喉が上下に動いて、それを見てるだけで、なんだか、身体が熱くなってくる。 ああ、やっぱりぼくって、御剣中毒なんだ。 だって、こんな美味しそうなフルーツ、食べずにはいられない。 その喉に、舌を這わせて、最後に食らいつく。 「、…ぉい…っ」 抗議色の声が耳に届くけど、知らないフリをする。 だって御剣は知ってて、解ってて、それでも、ベッドに戻ってきてくれたんだから。 これからどんな事になるか、ちゃんと理解してるんだから。 「御剣ぃ…ぼくにもイチゴ、食べさせて?」 「自分で食えないのか」 辛辣な台詞とは裏腹に、御剣はガラスの皿からひとつ、イチゴを摘んだ。 そうして、差し出してくる。 「いただきます」 指ごと口に銜えて、さっさとイチゴは飲み込んで、御剣の指を味わう。 ちゅく、と、音を立てる度に、御剣は視線を背けるけど。 興奮してることくらい、わかるよ。 だってほら、こんなになってるんだから。 そうっと御剣の服の上から反りあがってきたそれに触れる。 「、…っ…」 「でもまだ、おあずけだよ、御剣」 「……、うるさい…」 ベッドに押し倒して、御剣の服をゆっくりと剥いでいく。 露わになってく胸。腹、それから。 「…ねえ、今日、我慢汁すごいね」 「っ! 成歩堂!!!」 「御剣は嫌らしい言葉、嫌いだもんね?」 知ってるけど、たまには言わせてよ。その度に眉根を寄せていやがる顔、ぼく、好きなんだ。 いじめっこみたいで、ごめんね? 「キミは、…まったく、どうしていつも、そうなのだ…」 「どうして、なんて、解ってるだろ」 「…、知るか」 「御剣だからだよ。…御剣の甘い香りがね、ぼくを誘惑するんだ」 にやって笑いながら、白い胸をなでていく。そうして。 イチゴを取って、見せつけるように指でつぶした。 「…、もったいないではないか」 「ちゃんと食べるよ。パンに塗ってから」 「……パン?」 「御剣、色白いから、食パンみたいじゃない?」 言いながら、塗り付けていく。 「…、ぁ…っは…」 「イチゴサンドのできあがりー」 「バカ、な事ばかり、言うな…ぅ…」 「いただきまぁす」 御剣はさ、嫌がってるように見えるんだけど。 実はその反対だと思うんだよね。 だって、ぼくが御剣を、いやらしい体にしたんだもん。 時間をかけて、ゆっくりと。イチゴがジャムに変わるみたいにさ。 甘い砂糖を加たら。 べとべとになっちゃうんだよね。 こんな風にさ? 「…は、…っ…ん…」 舌で塗り付けたイチゴを舐め取って、ついでに御剣のイチゴも食べる。 「っ、あ!」 「…美味しい」 「…、な、成歩堂…歯をたてるな…」 「好きなくせに」 甘く噛むだけで、御剣の熱はどんどん上がっていく。 かわいいなあ。 「…っ、…ぁ、…う…」 「ねえ、もう限界なんじゃない?」 「、あ、…な、…成歩堂…」 「欲しいって言いなよ。 舐めてって、言いなよ」 「…っ……」 言えないってわかってるから、笑いながら言う。 たまにね、思うんだ。恋人になって、1年経っても、思うんだ。 御剣はさ、ちゃんとぼくを好きかな。 ぼくだけが求めてて。 腹を空かせて、デザートを待ってるんじゃないかって。 そんな事ばかり、考えてる。 「、………っ…」 「え?」 「キミ、…に、………、…っ……」 「……御剣…」 「…、…キミに…、…」 顔を真っ赤にして、涙ぐんだ目で、睨み付けながら。 御剣は、そうっとぼくの髪に触れた。そうして、自分に引き寄せて。 「……して、欲しい…、して、…くれ」 聞こえるか、聞こえないか、くらいの声で。 いままでは、触ってくれ、が限界だったのに。 …あーあ、降参だよ。 「いいよ。たくさんしてあげる」 いつも通りの台詞を言って、イチゴを3つ、指でつぶした。御剣の半身にそれを、ぐちゅぐちゅと塗りこんでいく。 先端が弱いのを知ってるから、特にそこにね。 「、…っ…ぁあ、…は、っは、…」 「すっごいえっちに見えるよ…」 「だ、黙れ…と、言って、…」 いつまで経っても、御剣の羞恥心は薄まることはなくて。 困ったように泳ぐ目。すぐに顔を隠す腕と手。口だって、塞いでしまうし、 それってぼくを煽るだけだって、わかんないのかな。 「じゃあ、黙ってこっちの口、開けてよ、御剣も。」 「…っ!!! …その、ような事を、言うな…っ」 「いつも、涎垂らしてるじゃない、上も下も、…さ?」 言いながら、完全に御剣の服を脱がせて、ぐい、と足を開かせる。 「や、やめろ…」 「期待してるんでしょ。…また溢れてきてるよ」 「…っち、違う…、私は、…」 「認めなよ。 いいじゃないか。ぼくはおまえの恋人なんだから。 …全部、見せてよ」 「っ…成歩堂、…ぁ、…ぁぁ…!」 いっそぼくの上に自分から乗って、欲しがってくれればいいのに。 そうしたら、髪を撫でて、いくらでもぼくをあげるのに。 御剣に、えっちな身体だね、って言い聞かせて、そう思いこませて。 逃げ道を塞いで、いつも。いつも。 …そうだ、一度だって自分から御剣はぼくを欲しがらないじゃないか。 「じゃあ、このままでいようか?」 「…、え…」 「ずっと、このままでいいの?」 「……、ぁ……」 そうっと御剣自身を撫でてく。 …ぼくは、いつだっておまえに優しくできない。 できない。 でき、ない。 わがままばかり押しつけて、甘えた声をだして、おまえに許しをもらって。 泣かせてばかりの、だめな恋人。 「……、うそだよ。そんな顔しないでよ」 「…成歩堂」 御剣は、起きあがってぼくに抱きついてきた。 「どうしたの」 「……すまない」 「…なにが」 「…いつも、私が、うまく、言葉にできないせいで、キミを不安にさせている事、…それから、 いつも、…キミだけが、……ベッドに誘ってくれている事、も……、それ、から…、 ……なかなか、…愛していると、言わない事も、…」 ぽつり、ぽつり、と、御剣のつぶやく言葉が、ぼくの上に降ってくる。 それは、まるでドロップみたいに、様々な色をしていて。 なんとか、拾い上げて、手のひらいっぱいにしたんだけど。 …食べきれないや。 「…御剣、…」 「っ…、私は、…っ、き、キミとの、…このような、…時間が、嫌いではないのだよ…」 すごい、これ以上ないってくらい、顔、真っ赤だ。 …ああ。 愛しいなあ。 御剣怜侍は、何度だって。 こうやって、ぼくを中毒にしてしまう。 「ありがと御剣。…ごめんね、恥ずかしいことばっかり言わせて。 恥ずかしいことばっかり、させて」 「……もう、なれてきたのだよ」 うそつき。毎回、泣きそうな顔してるくせに。 今だって、ほら。 「…じゃあ、甘くなって、溶けていいよ」 耳元で囁いて、そのまま御剣の身体を持ち上げた。 「う、あっ!?」 「ねえ…ぼくのも、いい?」 「…っ…ああ…」 御剣は、されるがまま、ぼくの上に跨るようにして、ぼくを銜えた。 「いいよ、…きもちいい…」 「、ん…む、…ぅ…」 滅多に御剣はしてくれないんだけど。今日は機嫌、よくなったのかな。 なんて思いながら、ぼくは御剣を解する事に専念する。 イチゴまみれのそれを指で愛撫しながら、ひくつく中に、舌を入れてく。 「っうあ、…ぁ、…なるほど、やめろっ…、舐めなくて、…いい…!!」 「やだ。 したいんだよ、ぼくが」 「一番それが、恥ずかしい…のだよ…っ」 「でも、そうしなきゃ。ぼくの、ココに入らないでしょ?」 「…っ…しかし、」 「それとも、イチゴでも、入れてほしいのー?」 冗談まじりで言ってみると、御剣の動きが止まった。 あれ? 「…御剣?」 「、そ、そんなわけなかろう!!!」 「そっかあ、そうなんだ。 やっぱり御剣もぼくに感化されてくれたのかな?」 にやける口元は放っておいて、ぼくは遠慮なく、御剣の入り口を開く。 視線の先にある皿には、まだ、たっぷりとイチゴが残っていた。 「あ、うぁ!…まて、違う、成歩堂、…ち、が、…ぁあぁぁー…」 「…想像したんでしょ、みっちゃんは、えっちだね」 「その呼び方はやめろ!!! あ、あう、あ、…やっ…はい、らな…」 「大丈夫。入ってくよ…、美味しそうに、飲み込んでる」 「…うそ、、…だ…っ…あ、…っふあ、…!!」 押し込むように、指を中に入れてく。イチゴの汁がぼくにかかって、なんだか興奮しちゃうな。 ぺろり、と襞を舐めて、吸うと、びくん、と御剣が欲望を吐き出した。 ぼくの腹に伝う、あったかいそれが、とてつもなく、愛しい。 「いっちゃったね」 手に取って舐める。 こっちはやっぱり苦いや。 「…っ…う、うう…」 「泣かないでよ。…ごめん、ちょっと、いじめすぎた」 「…、キミは、……意地が悪い…」 「うん。ごめん、……、後でいっぱい謝るから……、入れさせて?」 結構限界なんだよね。 御剣は、自分の顔の前にある、ぼくの熱に、ちゅ、と口づけた。 「…まったく…、キミは筋金入りの、…」 「うん、御剣限定だけどね」 最後まで聞かずに、そのまま体勢を変えて、御剣の中へ入っていく。 「ぅああっ!! い、いきな、…入れるな…っ」 「だって、…もう、…っ…、御剣、…っ」 「…、っ…あ、っひ、…ああ、っあ、…っっ…!!」 御剣を起きあがらせて、自分に座らせると、ぐん、と体重がかかって、御剣の身体が衝撃に跳ねた。 体重を足で支えようとするから、そのまま太股を持って、抱き上げる。 「や、め…うああああ!!、…ぁ、…っく、…ふ、……っ」 息が苦しそうだから、そのままちょっと、一時停止する。 「御剣…、…へいき?」 「、っ、あ、……っっ…ばか、…も…っ…ああっ」 行き場のない両腕が、空をかいている。 ああ、顔が見たいな。あと、それから。 「な、成歩堂、…っ」 「なに…?」 「、…キス、……っ…が、したい…」 うそ、同じこと考えてたの? 「うん、ちょっと待って…て…!!」 困ったな、うれしさでどうにかなっちゃいそうだ。 身体をゆっくりとベッドへ寝かせるようにして、一旦ずるりと欲望を抜く。 それから御剣を、そっと反転させた。 「っぃあ…!!」 「ごめん、痛かった?」 「……あ、…そんな、ことは、ない…」 汗で光る髪を撫でて、ちゅ、とキスをすると、御剣が舌を出してくる。 「……御剣、…」 「、…ん、…っん、う…」 荒い息と、でも、甘い匂い。 「…ねえ、…御剣…、…いい?」 もう一度、押し当てると、御剣は、今度はぼくの目を見つめていた。 そうして、 「もっと、……抱いてくれ」 やっぱりそれは、聞こえるか聞こえないか、くらいの声だったんだけど。 すごく、うれしかった。 「ぁ、成歩堂、…っあ、ぁあああ!!!」 ベッドが悲鳴をあげてるのか、御剣があげてるのか、よくわからない。 ただ、背中に必死に爪を立ててる御剣を、容赦なく責め立ててく。 「…っあ、…は、ぁ、…っうう、…な、…なるっ…ああ…!!!」 「うん、…ごめん、…好き、…大好きだ、から…」 いつもなら、御剣の前もちゃんとしてあげるんだけど。 ぼくはただ、獣みたいに腰をうちつけることしか、できなくなってた。 「、も、…あ…っ…入らな、…っ…」 「…御剣、…っ……っ…!!!!」 「ぁ…? …っう………っ…」 息が上がる、多分御剣はまだいってない。 そうっと、己を抜くと、シーツにシミが広がっていく。 御剣は、惚けた顔でそれを見ていた。 「…、ごめん、…ひとりで、」 「成歩堂」 「…うん」 「ひとつ、約束をしろ」 目は潤んだまま、息は荒いまま、御剣がそう言ってくる。 「………最中に、謝るな。 …それだけだ」 「…え」 「わかったら…、さっさと…、……きたまえ」 御剣が、照れたように笑ってて。 ぼくはその後の記憶が曖昧になるくらい、御剣を貪っていった。 ついでに言うと、今、御剣は気を失ってる。 元から白い肌が、更に白く見える。 何回やったんだっけ。もう深夜1時近いや。 「…ん…」 「あ、…起きた…」 「な、るほどう…?」 「うん、いるよ」 そうっと起きあがらせると、御剣は顔を少しゆがませた。 無理させたからな…、身体、痛いんだろうなあ。 「…ごめ、」 「成歩堂」 「っ…、だって、…」 謝るくらいしか、できないじゃないか。 いつだってぼくは、突っ走ってばかりだから。 「…その、…美味だった。」 「え」 「…来年も、たくさん、買ってきてくれたまえ」 御剣は、めったに笑わない。 とくに、春先は機嫌が悪いし。 でも。 御剣は、―― ぼくを、好きでいてくれた。 「うん、…今度は一緒に、ちゃんと食べるから」 「ふ…、そうしてくれたまえ」 来年は、色んなフルーツを買ってこよう。 甘い甘い、生クリームに、それをはさんで。 フルーツサンドを、作ろう。 こんな風に、甘い味の。 イチゴサンドを、一番に。 END |