タンポポ、ヒマワリ、バラ、ユリ、ミツルギ。




幸せだなあ。
あー、幸せだなあ。
ぼくって本当、幸せだよなあ。
御剣、こっち向いてくれないかなあ。

「成歩堂、視線が煩いのだよ」

「えー、目は喋んないよぉ〜?」

「……、黙って、いたまえ」

隣を歩いているぼくの恋人は、相変わらず不機嫌な顔で、眉間にシワを、寄せている。
春の風が吹いて、彼の髪を揺らしてく。 ほんと、絵になる男だよね、君って。
見つめちゃうのも仕方がないと、思うんだけどなあ。

「ほんっと、御剣って照れ屋だよね。もう付き合って1年以上経つのにさあ。まあ、そんな初心な君だから、
可愛いくて最高なんだ…けど、ごめんなさい殴らないでDVはよくないと思います愛があってもダメだと思います反対」

首根っこを掴まれて、ひいい、と悲鳴を上げると、恋人のため息が聞こえる。
背はそんなに変わらないのに、こーゆー時の御剣ってなんかこう、威圧的なんだよねえ。まあ、そんなトコも好きなんだけど。

「まったくキミは――…外ではやめろ、と言っているのだ」
「え、御剣…めずらしくお誘いなのかな、それって。君のマンションまで、あと数十メートルだけど。」
「違うのだよ。いいかげんにしたまえ。 …ム?」

御剣の視線が下へ向く。なんだろ、なんか落としたのかな?

「どうしたの、御剣」
「――ふ、…キミが咲いていたのでな。 少し、見ていたのだよ」

そういいながら、珍しくちょっとだけ一度笑って、リズムよく歩いていってしまう。早足の恋人。
ぼくが咲いてる…? 

コンクリートの上には、黄色い花がふたつ、咲いてる。…たんぽぽだよなあ、コレ。
よく、真宵ちゃんや春美ちゃんには、なるほどくんは、絶対に向日葵だよね。って言われるんだけど。

「ぼくを花に例えてたの? っていうか、ぼく、たんぽぽかな…?」
「まあ、野草はたいがい、私はキミに見えるのだよ」
「…ふ、ふうん? ぼくってそんなに花っぽいかな。どっちかっていうと、御剣の方が、綺麗な花に例えるべきだと思うんだけどー」
「―― ああ。キミは、草花だな。 つねに、私の心を慰めてくれるからな」
「そう、なの?」
「このように、力強くコンクリートの隙間から顔を出しているキミは。 
ふと、視線を下に落として歩いていたとき、心を暖めてくれるのだよ。…そっくりだろう、成歩堂、キミに」
「――、ちょ、え、ちょっと、それって口説いてるよね、絶対誘ってるよね」
「…、そのようなアレではない。」

ちょっと、本気で嬉しいんだけど。
こんな風に、たまに、御剣はぼくに対する愛を語ってくれちゃったりするんだよね(そうじゃないって必ず言うんだけど。)
ほら、顔赤いし。めちゃめちゃ照れてるじゃないか。

可愛いな。

もしもね。ぼくが花だったら。 そうだな。向日葵だったら。
御剣怜侍っていう太陽を見つめて、咲き誇って、花びらを散らすよ。
たくさんたくさん、種をそこらじゅうに、撒いてさ。 もっともっと、君を見つめてく。 
たったひとつしかない。たったひとりしかいない君が寂しくないように、大輪の花を咲かせて。
ここにいるよって、両手を振って、咲いてみせよう。

もしもね。ぼくが花だったら。 そうだな。蒲公英だったら。
君が言うように、疲れながら歩いている御剣怜侍を、そうっと下から、見守るよ。
君が気づいても、気づかなくても。
たった一瞬一回、君の視線がこちらに向いたときにさ。 笑ってくれるように、がんばって咲いていこう。
そうして、綿帽子を空に飛ばして、風に乗って、運んでいくんだ。 君の笑顔を。

「御剣、ねえ、君はきっと、薔薇だよね」
「…ム。刺々しくて、わるかったな…っ」
「違うよ。そうやって、ちくちく威嚇してるんだけどさ。 ほらたとえばこうやって、ね」
ぼくは、御剣の頬を撫でた。
「…な」
「あっという間に棘なんて、取れちゃうんだよ。知ってた?」
「……ムう…」

花の名前なんて、なんでもいいんだ。 ちっとも詳しくないし。

「真っ白い薔薇がいいな。 清楚な百合でもいいけどね。」
「…は、恥ずかしいものだな。例えられるというのは」

「絶対、白い花だね――、御剣、おまえは」
「…わかったのだよ。その、……、マンションに、来るか?」

「なんだ、やっぱり誘ってたんじゃない?」
「だまれキサマ、もう知らん!!」

「ああーごめんごめんって御剣、ちょっと待ってよ!」


君を追いかけてくよ。 たとえ綿帽子になってもね。


そうして、そっと、君に触れよう。

気づいた君は、きっと笑うから。