過去拍手SS



『ケンカする程、仲がいい。』




「だからどうして、御剣はそう、頑固なんだよっ」

「キミだって人の事は言えないだろう、頭ごなしに怒鳴るのは、やめたまえ」

「ぼくは長年キミの親友をやってるけど、そーゆー頭だけで物事を考えてるのは、どうかと思うんだよねっ!
人は心で生きてるものだろっ??」

「感情論はどうでもよろしい。 煩くて新聞が読めない。少々席を、外してはくれまいか」

「嫌だね。 御剣が折れるまで、ここ、どかないから」

「…私はキミの、そんなところがあまり好きではない。」

「なんでそーいう言い方しかできないんだよっ っていうか、御剣無理しすぎなんだよ!
夕べだって遅く帰ってきたんだろ、もっと身体を大事にしろよっ」

「……成歩堂、私たちは、喧嘩をしているのだろう?」

「うん、そうだよ」

「だったら、このように、抱きしめてキスをするのを、やめたまえ」

「…御剣は、ぼくが嫌いなんだ…」

「そうは、言ってはいない」

「嘘だね。だから先週だって、仕事優先して、デートすっぽかしたじゃないか」

「…子供のようなことを、言うのはやめたまえ、26にもなって」

「………だって、喧嘩してたって、御剣には触ってたいんだもん。」

「その質問は、今はしていない。…ところで、キミは何を怒っていたのだ?」





「…わ、忘れた…」


「ならばいい。 それでは、お茶にでもしよう」



「うん、御剣、ぼくミルクティーね」



そんな、日常。




ねこみつるぎ な お話。 〜 御剣にねこみみとしっぽが生えたんだけど、どうしたらいいかな。 〜  


またたびラバー。 1



「ねえ御剣」

「なんだろうか」

「それ、何?」

「…成歩堂、世の中には、言葉ではすぐに表せない、そんな事態も起こりうるのだよ」

「うん、そうとう、動揺してるみたいだね。 耳、ぴくぴく動いてるし」

「…、触るな。敏感なんだ」

「…うん。っていうか、本物なんだ」

おはようございます、成歩堂です。

朝起きたら。 横に寝ている恋人に、ネコミミとしっぽが生えていました。

彼は数十分前に起きていたらしく、鏡でチェックしたり、抜こうとしたり、四苦八苦したらしいんだけど。

どうやら、無駄な努力に終わってしまい。ぼくが起きるまで待っていたらしい。

起こしてくれればよかったのに。 そういうところ、御剣だよね。


「可愛いよ。なんていうか、にあってる」

「まったく喜ばしくない事態だ」

「そうかな」

「こんな格好では、来月からの海外研修どころか、明日の仕事にも支障をきたすのだよ」

「…このさい、長期休み取っちゃえば?」

「無責任な発言は、控えてくれたまえ」

「あーうん、ごめん。怒らないでよ」

「…私は、これからどうやって生きていけばいいのだ…」

「当面は、ぼくのマンションに泊まればいいんじゃない? なんかあったとき、かばえるしさ」

「し、しかし…」

「仕事だって、帽子被って、しっぽだって服の中に入れれば、なんとかなるよ」

「――仕事中に帽子など、非常識だろう」

「でも、それしかないよ。 だって休みたく、ないんだろ?」

「う、うム…」

「色々ぼくも、知り合いに相談してみるよ。 オカルトなやつら、いるし」

「た、頼むのだよ」



「それでさ、御剣、お願いがあるんだけど」

「なんだろうか」



「ちょっとだけ、しっぽ触らせてよ」



「…す、少し、だけなのだよ」




さて、これからどうなるのかな。






またたびラバー。 2


そうっとしっぽを撫でてみる。
ぴくん、とネコミミが反応した。
ちょっと、可愛いんだけど、どうしよう。

「…ぁ…」

「……御剣、今日何も予定入ってないよね」

「…、それは、そうだが」

「だからぼくん家に泊まってるんだもんね。 …しよう。っていうかしたい。」

別にコスプレフェチじゃないけど、可愛すぎるよ。なんだこの生き物っ!(いや、御剣なんだけど)

「成歩堂…、断る」

「ええ〜?」

「キミ、夕べは何度したと思っているんだ。 腰がだるいのだよ」

「…じゃあ、にゃーんって鳴いてみて??」

わくわくしながら聞くと、べし、と額を叩かれた。

「変態か、キミは」

「そうだよ、御剣のことになると、ぼくは紳士じゃ、いられない」

「―― まったく、このような事態になったというのに、キミは変わらないな」

「え…」

御剣は、困ったように笑って。

「…さきほど、鏡の前で、キミが離れていってしまったら、と考えていた時間が、もったいないのだよ」


御剣…。

だめ、かわいい。 ネコミミ効果じゃなくて。

「…しよ? ね、…ちょっとだけ加減するから」

ちゅ、とキスをすると、

「…、歩けなくなったらどうする」

「責任もって、一日お世話するから」


「…、はあ、まったく…」


「ね、お願い」


「…好きに、したまえ」

「やった♪」




「あと、その…、…、に、…にゃ、ん…」


「…ごめ、手加減できないかもっ」


押し倒しちゃえば、こっちのものなんだよね。






またたびラバー。 3 



真っ白なシーツに、真っ白な肌の恋人。それから、真っ白なネコミミに、しっぽ。

どきどきする。なんか、悪いことしてる気分だ。

「ねえ、御剣、安心してね。もしも、一生このままでも、ぼくたちはずうっと恋人だからね?」

「…っと、当然なのだよ…」

「またまた、強がっちゃって。不安だったんだろ?」

「うるさい、するならさっさとしたまえ!」

「はぁい」


そうして、そのままぼくは美味しく恋人を頂いたんだけど。

…なんか、マニアックプレイに目覚めてしまったかもしれない。

だって、恋人にしっぽがあったら、することなんて、ひとつだろ?





「…なるほどう…、…二度とあのような…、ことは、するな…」

「御剣、よくなかった? ごめん」

「……反対だ、バカモノ。」

「…はーい」


いたずらをするように、ネコミミの中を嘗め回す、

「ぁあっ!! ……っ成歩堂!!」

「…そ、そんなに敏感なんだ…」

「……くそう…」


御剣は、ベッドにある枕に突っ伏してしまう。

あれ?

ちょっとだけ腰が揺れてる。

もしかして。

うん、もしかしなくても。

「御剣ぃ、…もっかい、する?」


「…、…勝手に、したまえ」



もう、ほんと、かわいいんだから。






またたびラバー。 4


ベッドの上で、御剣が寝ている。そうっと起こさないように、横から抜け出そうとすると、ぐい、とシャツを引っ張られた。

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

「どこに行くのだ」

「え…っと、―― か、買い物、かな」

「私も行くのだよ」

「そんな事言っても、ムリでしょ? ほら、立てないじゃない?」

ムう、と少しネコみたいに唸りながら、御剣は立ち上がろうとするんだけど、力が入らないのか、また、ベッドにへたり込んでしまう。

「抜かずの3回だもん。 限界突破中でしょ? ゆっくりしててよ」

「成歩堂」

「ん?」

「寂しいのだよ。ひとりにしないでくれたまえ」

「――…」

ねえ、御剣、わかってるかな。普段のおまえは、そんな事、冗談まじりにだって言わないんだよ。
やっぱり猫化してるから、性格にも影響が出てるのかな。 だとしても、猫ってもともと、人にそんなに懐かないよな。まあ、例外はあるんだけどさ。
まるで、寂しがりやのウサギみたいだな。

ぽん、と髪を撫でた。

「うん。わかった」

「…そうか」

少しだけ笑顔になった御剣が、しっぽをゆらゆらと揺らしている、はっきり言うよ。超可愛い。 なんていうか、飼い主バカになりそう。
まあ、恋人同士なんだけどね。

「おいで、御剣。 毛づくろいしてあげる」

「っ…そのような言い方は、やめたまえ」

そんな事言いながら、御剣はぴくぴくと、ネコミミを動かしてる。

「じゃあ、いっぱい撫でてあげるから、抱きしめてもいいかな? 御剣」

「…ふ、ん…好きにしたまえ」

ぎゅう、と抱きしめると、御剣は、また、少しだけシャツを掴んできた。

聡いおまえのことだから、自分の変化にも気づいてるんだろう、そして、その不安をぼくには、決してぶつけたりしないんだ。

ひとりで抱え込むクセ、たまに、厄介だね。

ちゅ、と髪とネコミミに口付ける。

「…御剣。 大好きだよ」


だから、たまにはぼくに頼ってほしいんだけど。

だから、たまには、想いを吐露してほしいんだけど。

「―― 成歩堂、買い物に行ってきてくれたまえ」

「え?」

「…紅茶が飲みたいのだよ。 だが、この家には、ティーパックしか、ないだろう?」

「うん。 わかった」


なんでその時、ぼくは気づかなかったんだろう。

ペットを飼ったことないから、なんて、理由にならないよな。










「ただいま、…御剣?」


部屋は、もぬけの殻だった。


猫は、よく家出をするって言うよね。

だから私は犬派かなあ、なんて、真宵ちゃんが言っていた気がする。


ぼくは、ばかだ。

オオバカだ!!!





またたびラバー。 5



検事局にもいない。もちろん、マンションにも帰ってない。 しかも、ぼくの部屋に携帯を置いてってる。
連絡手段がない。どうしたらいいんだ。

「あ、もしもし、冥ちゃん? …え、あ、そうだよね、ごめん…これから法廷? が、がんばってね」

頼みの綱だった、冥ちゃんも、御剣はどこにいるか知らないっていう。裁判の前に動揺させるわけにはいかないから、話せないし。
何より、御剣が、あんな状態になっていることを、彼自身、誰にも知られたくないかもしれない。
だから、なるべく早く、このぼくが見つけてあげないといけない。

わかってる。走ってる。でも、見つからない。見つからない。

「ミツルギィイイイイ!!!」

叫ぶ。でも、届かない。伝わらない。

まるで、あの時みたいだ。
記憶には新しすぎる。 彼は、失踪した事がある。いつもそれは、彼が一番悩んでいて、つらい時だ。

そんな時ばかり、誰にも頼らずに、ひとりで解決しようとする。

…ぼくは、彼にとって、恋人で。
でも、ただの、恋人でしか、ないんだ。

それが――、情けなくて、つらくて。どうしようもなく、歯がゆい。

「…っくそ!!」

足がもつれそうになる。
御剣が行きそうな場所、どこだ? あいつの趣味? 仕事ばっかりで、わからない。
ゴルフは得意だったけど、まさかあの状態では、行かないだろうし。
行きつけの店も、紹介してもらったことはないし。
っていうか、きっと、人目につくところには、行かないはずだよな。

冷静になれ。御剣は、どこへいく? 

ふと、子供の頃に、一緒に遊んだのは、公園だったことに、思い当たった。

ここらへんに、公園なんて、あったっけ?

探せ、なんとしてでも。可能性が1パーセントでもあるなら。



もう、日は沈みそうで。

なんとか、視界に入った場所へ、足を踏み入れる。

「…っ御剣、いたら、返事してくれ!!」


しいん、と静まり返った、公園で。

小さく、猫が鳴いた。

「…、御剣…だろ?」

近づいていく。ドラム缶を横にしたような、その、コンクリートの中に、彼は、いた。
小さく震えて、こっちを、ちらり、と見る。
すぐに、目を反らそうとするから。

「……、大丈夫だった? なんか、変なことされなかった?」
「、なる、ほど、…」

「―― 何にも聞かないから。言いたくないなら、無理して言わなくていいから。 …一緒に帰ろう?」


「……こわ、かった、…」


「うん。もう、大丈夫だよ」


ぼくはもう、二度とおまえを、ひとりになんて、しないから。