HAPPY ハロウィン!





インターフォンを3回鳴らす。
ぼくは、わくわくしながら、そのドアが開かれるのを、待った。

―― がちゃり。

「何か…」
「みつるぎいいいいいい!!!」

ああ、なんだか先に言わなくちゃいけない事があった気がするけど、まあいいや!
ぎゅうう、と不機嫌な顔をしていた恋人を、抱きしめる。

「成歩堂、苦しい」
「御剣、嬉しいっ」
「…来るなら連絡を入れろ。 悪いが、帰っていただきたい、本日中に書類を」
「聞き飽きたよその台詞!! 
そうだ!! 御剣、トリックオアトリート!!」

「…ああ。 Here you go.」

ぼくが大きな声でそう言い放つと、御剣は、びし!っと、ぼくの額に飴玉を当てた。

「御剣ひどいよっ!! それに何その返し!!」
「一般的だろう。まあ、大概、「Happy Halloween!」だろうがな…、
そもそもキミが、悪戯されるか持て成すか、どちらがいい? と聞いたのだろう。 その返事だ」

え…お菓子をくれなきゃイタズラするぞ…だと思ってた…、まあ、それは置いておいて、
なんなんだよこの温度差! 御剣はイベントごとには気合いを入れる性格なのに、なんで今回はこんなにクールなんだろう?
でも、ま、負けないよ、絶対に今日は御剣とハロウィンを楽しむって、決めてきたんだからっ!

「アメもチョコレートもクッキーもいらないよ、ぼくにとっては、おまえが最高のお菓子なんだから!!!」
「それは、つまり…」
「お菓子をくれなくてもくれても、御剣をぼくは食べるよっ!!」

更に、ぎゅうう、と抱きしめると、御剣はやめたまえ、と溜息をついた。

「小さな子供でもないのに、菓子を欲しがるな。 そもそもハロウィンというのは、生来、」
「いいんだよ祭典の意味とかそんなのは! 日本人はクリスマスにケーキ食べて、年が明けたらお正月なの! 楽しめればそれでいいんだってば!!」
「…まあ、正論でもあるが。」
「じゃあ、いいよね御剣、部屋入れて、それから甘い夜を過ごそう!」
「……、いいわけなかろう。帰れ」
「だから御剣さっきからひどいって! でも好き!!」
「――まったくキミは、…それから、先ほど言いたかったのだが、キミのその…に持っている、大きな紙袋は、なんだ?」
「ああ、これ? 御剣用の神父の仮装服と、ぼくの囚人服。 あ、他にもね、狼男とか、海賊服とか色々…」
「成歩堂、…それを、着ろと?」
「もちろん!! そして今夜はそのままコスプレ…」
「成歩堂…、潔くそれを持って帰りたまえ」
「ええー、だって、これのために今月の事務所の家賃、おまえに借りたんじゃないか」
「今すぐ返せ、バカモノ!!」
「だってイベントは大事にしないと」
「ならばこのマシュマロでも食べて、帰れ。 イベントはそれで終了だ」
「……、みつるぎ、ぼくの事好きじゃないの?」
「…うっ」

「嫌いになったんだ。飽きたんだ。 そうだよね、天才検事御剣怜侍と、しがない弁護士のぼくじゃあ、つりあわないもんね」
「そ、そうは言っていないだろう」
「…言ってるよ」

やっぱり御剣には、情に訴えるのが一番だよね。
感動屋だし、そういうのに弱いから。
うろたえてるのがわかるから、畳み掛ける。

「また…外国行っちゃうんだろ。 おまえと一緒のハロウィンなんて、しばらくできないかもしれないし、…だから、思い出作りたいって、…ぼく、そう、思って…」
「…うう」

「余計なことばっかり、いつもしてるよね。 御剣のこと、大好きだけど、不安になるんだよ。 いつだって、ぼくはおまえをこの腕に抱いていたいんだ」
「…う…うううう…」

「…御剣、だめ?」

「わ、…わかった、…のだよ」

大成功!! 御剣は、押しにむちゃくちゃ弱いんだよねっ!!

「やったあ! 御剣、大好きっ!!」
「こ、こら、やめたまえ、舐めるな…」
「だって、ぼく今日は、狼男だもん」
「囚人ではなかったのか? まったく、キミはどうしようもない男だ…」
「けど、そんなぼくが好きでしょ?」
「…ふ、…そうだな。 …好きだ」

何度も御剣にキスをして、そのままベッドに誘う。

「ねえねえ、なんか今日機嫌悪くないか? いつもなら、こーゆーの、御剣、大好きだろ?」
「…う、…うム。 失敗したのだよ」
「ええ?」

何を、とぼくが聞くと。御剣は、自分のクローゼットを指さした。
それは少しだけ開いていて、気になるから、そっと中を覗き込んだ。

「…ああ、なるほど」

「…私の方が、種類は多いぞ」
「そうだよね、本場でやってきてたんだもんなあ」

クローゼットの中には、ハロウィン用の衣装がたくさん入ってた。
やっぱり、御剣はぼくよりも、イベントに気合いを入れるヤツだもんなあ。 今年もサンタクロースには、なってくれるのかな?

「じゃあ、御剣、コレ着て。 ぼくはこれ、着るよ」
「し、しかし…キミがせっかく持ってきたものがあるだろう」
「それは、また、次でいいから。 ほら、御剣は吸血鬼! ぼくは、ミイラ男だよっ」

「…う、うムっ」

よかった。ようやくイベントの時のやる気モードの御剣に戻ってくれたみたいだ。

「御剣が電話してくれたら、ぼくだって、普通に遊びにきたのに」
「まあ、その、なんというか、いい大人2人だけが、騒ぐのもどうかと…悩んでいたのだよ、ここは日本であるからな」
「今はみんな結構パーティーしたりしてるよ。 …よし、御剣、着替え……、うわ、すっごい似合う」

でも、普段の方が派手な服着てるから、違和感ないよ、さすが御剣。

「だろう? オーダーメイドだ」

嬉しそうに笑っちゃって、ほんと、御剣カワイイなあ。

「…じゃあ、えっちしよう御剣!」
「な、こら、…待たないか成歩堂…せっかく着替えたのだよ…」
「脱がしたいから、着てもらうんじゃないかー」
「そ、それに、キミは明日も仕事だろう?」
「うん、でも、御剣は休みなんだろ、じゃあ、問題ないよ!」
「どういう理屈だ…あ、…っ…やめ、…」
「だって、御剣としたほうが、疲れとれるんだもん、ぼく」
「…――、それは、本気で言っているのか、成歩堂」
「うん、大真面目だよ」

「…もう、何も言うまい、勝手にしたまえ…」

御剣は、なんだかツボに入ったみたいで、笑ってた。
「ちょ、ちょっと御剣ぃ、何笑ってるんだよ」
「いや…くく、すまない、…キミがあんまり正直なのでな、…ふ…はは…」
「だってしょうがないだろー、あーもうっ…」

あとはもう、着ているのはミイラ服だったけど、狼になりきっちゃってさ。

ぼくらなりの、

ハッピー。ハッピー。ハロウィン!



「御剣、携帯の待ちうけにするから、一回だけ全部の衣装着てくれない?」

「まあ、一着ならば、かまわない」

「ええー、どれにしたらいいか、迷うよ」

「…毎年、撮ればよいのだよ。キミが持ってきた衣装も、そこのクローゼットに来年まで眠らせておきたまえ」

「…う…うん…わかった」

それって、来年も再来年も、一緒に過ごしてくれるって、ことだよな。
そんな風に、つい聞いてしまったぼくに。

御剣は、ふわりと笑って、キスをしてくれた。




あー、もう。

だからこのお菓子が世界で一番、大好きなんだよ!






END