正反対情愛論。(後編) 




こいつ、頭いいくせに、ちっとも、わかってねえんだなあ。
こいつ、ホント、しょうがねえヤツ。 ホント、どうしようもねえくらいに。
愛しくて、たまらねえよ。御剣。


「…捨てるわけねえだろ。 何年一緒にバカやってると、思ってんだっての」

「、…っ…、しかし、キミと私では――」
「ん、そうね。 住んでる世界も違えばよお、食ってるもんも、見てるもんも、何もかもが、ぜーんぶ、違うワケよ。 そんなん、最初からわかってんよ。
―― だから、なんだっつうの?」
「だ、だから…きっと、キミはすぐに私に飽きてしまうだろう。…きっと、…こんな、…どうしようもない、…私、など…」
「あ、いい事教えてやんよ」
「え…」

シャツを、バリ、と引き裂くみたいに、破った。
きっと、高いんだろうな。 ま、関係ねえし。

「おい、矢張、…少し待て、まだ、話が終わっていないではないかっ」
「しながらで、いいだろ。 ほら、勃ちかけてんじゃん」

そろ、と手で触れる。 冷酷無比、とか呼ばれてるこいつも、やっぱりここは、さすがに熱いわけね。

「っふ、…ぁ、…だめだ、…はなせなく、なる…」
「じゃ、聞いとけ。 オレ様の愛だけ、聞いてろ」
「…っ…ん…っ…ふ…」
「…好きだぜ、つーか…愛してる、――これは、本気だ。
それからな。 オレ、自分から好きなヤツ、振ったことねえから。一回も。…誓ったってありえねえよ。オレがおまえを嫌う日なんて、一生こねえ」
「――…っ……、あ、…矢張、…っあ、…あ、」
「だから、安心してろ。 オレとよ。ほら、成歩堂は、生涯おまえの友だ。絶対いなくなんねえし、裏切らねえから」
「…ん、…わか、…ったのだ、よ…、っ…」

御剣の白い手が伸びてきて、オレの髪に触れた。

「この、みかん、色が、好きなのだ…」
「へ? 違えって金がかってるけど、茶髪だぜ、オレ…」
「…ふ、…知らないのか、…キサマ、はいつも、太陽の下にいるからな。 光って、みかん色に見えるのだ」
「――…欲しいの?」

御剣は、ちいさくうなづく。
こんなもんが、欲しいのかよ、おまえ。
ったくホント、しょうっがねえなあ。

こんな軽薄でしょうもねえ軽い男、欲しがってんじゃねえよ。
どこがいいんだっての。


「…じゃ、ついでに、オレ全部、やるからよ。」
「――、…、っ…」
「バカ、泣くなって。…ったくもー、…ほら、気持ちよくなっとけ」

男相手にしたことなんてねえから、勝手はわかんねーけどさ。
でも、優しくしてやりたいし、傷つけたくねえし。 

ほんと、こいつ、傷だらけだからさ。

「…つ、あ…っ…や、はり、…っ矢張、ぃ…」
「ん、そう、力抜いとけ、息すんの忘れんなよ、後な――、そうだ、名前呼んどけ。」
「う、あ、…っ…あ、あ、…すまな、…っ声、押さえ、られ、」
「いいんだっつうの、萎えねえし。ホラ。触ってみろって」
「――…? …っ…!!」
「な? つーかむしろ、…聞かせろ。すげ、興奮する」
「ば、バカを言うな! キサマ、…っあ、ああ…!!」
「そーそ。そやって口悪ぃ方が、おまえらしーから。」
「わ、笑う、な…っ…ひ、あっ」
「気持ちいんだ、検事サン?」
「ちがう、ちが、…っその呼び方はやめろと言って、…っ?! やめ、やだ、…矢張!!」

笑いながら、セックスしようぜ。
なんかホラ、苦しいのもさ、痛いのも、もう、やだろ?

そんなんもう、たくさん食ったろ、おまえ。
そんなんもう、いらねえだろ。おまえ。

だから、みかんでもりんごでも、なんでもいいから、
苦いんじゃなくて、甘いの食ってろよ。

「…やはり、やは、…りぃ…」

ちゅく、と音を立てて、欲望を銜えてやるだけで、どうしようもねえくらいに、切羽詰った声が振ってきて。
好きだなんだ言ってた、オレの髪を引っ張って、頬、引っかいて。

でもな。やめてやんねえ。

絶対、放してやんねえ。

もう、おまえ、オレのよ。 覚悟決めて、告白受けたんだろ。

だから、残さず食えよ。御剣怜侍。

「…きもち、い…、…の、だよ…、いって、しまう…」
「ん…っ…イケよ。…飲んでやるから。…全部、出せ」
「っあ、…っ…やは、…り、…キサマ、最低、――っ…ああああああぁ…っ!!!」

苦いのは、オレが全部、請け負ってやっから。

笑ってりゃいいのよ、たまには。 ホント、眉間にシワばっかなんだもんよ、おまえ。



「…はあ、はあ、は、…っ…はあ…」
「ど? 悪くねーだろ、こーゆーのも」
「…、…ふ、…ハハ、…っ……なにやらもう、どうでもよくなってきたのだよ――…」
「だろ〜?おまえ、色々難しく考えすぎなんだよ。」
「…矢張、…」
「ん?」
「―― キミが、好きだ」
「…おお、…なんか照れんな、やっぱ、こーゆの」

「とても、好きなのだ。」

御剣。

バーカ。

ほんと、おまえ、しょうがねえバカだよ。 すっげえ頭、いいクセに。
不器用で、無愛想で。
言い寄ってくる女はいっぱいいるけどよ。内面なんて、全然見てもらえなくて。
そのようなアレは困る、しか、言えねえ、恋愛へったくそな、ヤツで。

こんなオレなんか、好きになっちゃってよ。


バカとしか言いようがねえよ。

だから、全部、もらってやるよ。


「―― 御剣。 …おまえもう今日、寝れねーわ」


はあ、キサマ何を言っている、じゃねえよ。

おまえこそ、何言ってるんだってーの。

おまえこそ、

「何好きになってんだよ」


―― 振られてもあきらめらんねえぞ、こんな感情。