―― 親愛なる矢張へ、この愛を捧げよう。


正反対親愛論。 御剣から、矢張へ


そこにいるのは、親友のひとりだ。どう見ても、男であり、小学校からの、幼なじみだ。
大概の事は知り尽くしている、つもりだった。
女好きで、軽薄であり、よく笑い、泣き、怒り、

―― そして、また笑う。


「…矢張…、…その、明日は、一応午後から、検事局へ向かうことになっていてだな…」
「わかってんよ。 じゃあ、10時くらいまでは、ここにいられんじゃん、余裕だろ」
「…し、しかし、…先ほどキミは、眠らせない…などと、たわけた事を言っていたような気がするのだよ」
「うん」
「…それは、一睡も、だろうか?」

それは困るのだよ。もしも、法廷で成歩堂と争う、などとなった時に、自己管理もできていない状態で、戦いに向かうわけにはいかない。
検事として、あるまじき行為、という事になる。
私の真剣な眼差しを受け止めていた矢張だったが、ふいに、笑い出した。
な、なぜだ? なぜ、笑うのだ?

「…ははっ、おっまえホント冗談きかねえなあ。嘘だよ嘘。しないしない。つうか、初回でうまく抱けるわけねえだろ。個人差もあっけどよ、
おまえが良くなるまで、少なくとも数ヶ月はかかると思うぜ?」
「な!? ……っ貴様、わ、私は! もう帰らせてもらう!!」
「いや、ここ、おまえん家だから。 まあ、アレだ。 なんもしねえとは、言ってねえぜ?」
「……、そ、…そう、か…」
「大丈夫だって、俺様これでも優しいし、うまいぜ?」
「そんな事ばかり得意でも、人生に置いては、何の意味もないのだよ」

つい、売り言葉に買い言葉だった。
一瞬、矢張の表情が、変わる。たまに見せる、黒い笑顔だ。
このような時は、いつもロクなことが、ないのだよ。

「ふうん、へえ、そう言うこと、言うわけね、天才検事さんは」
「…て、訂正はしないつもりなのだよ」

ここで折れるわけにはいかない。私にだって、プライドはある。
先ほどのようにただ、泣かされているなど、男としての……。
そこまで考えて、しかし、すぐに後悔する。

「…なんの意味もないっつったよな?」
「ああ、…意味、…など、…ない…っ」

半分嘘で、本当だと思う、生きていく上で、私にとっては、こんな枕事など、必要ない。
仕事だけしていればいいのだ。それで、充分に幸せなのだから。
しかし、たまに、彼に触れてもらいたいと思う、自分もいる。
だが、それを今認めるわけにはいかない。矢張などに、口で負けるわけには、いかないのだよ。
この、検事としての威厳にかけて!

「さ、先ほどの紳士的な態度は、偽りだったのだな。ヤッパリヤハリだな。」
「いや? 別にひどくするなんて、言ってねえじゃん。」

耳元で、囁かれる。
あまりに、甘く響く声だ。

「なあ…天国、いかせてやろっか?」

「…っこ、断るのだよ!!!」
「遠慮すんなってえー」
「していない! 離れたまえ!!」
「やだね。オレサマ、自由に生きてく主義だから?」
「ま、待て、――…っあ」
「―― 御剣、足りてねえだろ、あんなんじゃ」
「っ…低い声を出すな…、」

耳がおかしくなる。心臓の高鳴りが、とまらない。なんだ、こんなものは、先ほど、達したばかりのはずだ。
ありえない。私は、こんな淫らな人間ではない!

「…う、…ぁ…」
「入れねえから 慣らすだけ。…それなら、明日の法廷にも響かねえだろ、検事サン?」
「だ、からその呼び方…、…もう、…かってに、したまえ…っ」

矢張の指が、身体中を、ゆっくりと、撫でていく。まるで、遊んでいるかのように。
それに神経を集中してしまい、私の欲望は簡単にまた、蘇ってしまう。いやだ。いやなのだ。こんな、ひとりだけ。

「御剣、…大丈夫そうか?」
「っ…優しくするのか、しないのか、どちらかにしたまえ…っ!!」
「じゃあ、前者にしとくわ。 愛の戦士だからよ」
「なんだソレ、は、…ああっ…??」
「すげ、おまえ、女みてえ」
「…っちが、う……」

胸ばかり攻めないでいただきたい。 やめたまえ。
爪を立てられ、弄ばれ、強く抓られると、電流が走ったように、身体がいう事をきかなくなる。
身体が、おかしくなっていく。 認めてしまうしか、ない。
矢張は、…どうしようもなく、セックスの上手い、男なのだ。

「違わねえよ。 おまえ、オレ様のオンナになんの。わかった?」
「いや、だ…っ…女性、では、ない…のだよ」
「…じゃ、カレシでもなんでもいい。 とにかく、善がってりゃいいよ。 気持ちいいことしか、しねえから」

くそ、笑うな。
私は、キミの笑顔が好きなのだぞ。 こんな、時に、笑うな。
ああ。心と、身体が、シンクロしてしまう。

「…御剣、全部脱いじまえよ。動き辛いだろ?」
「あ、…、だめ、だ、力が、入らない…」
「…へえ。」

だから、にやけるな、…と、言っているっ!!
嬉しそうに私を、一糸纏わぬ姿にし、だが、矢張は、脱ごうとすら、しない。

「キミ、は、いいのか…?」
「んー。だって入れねえし。早漏でもねえからよ」
「…、…わたしは、そうだといいたいのだろう」
「え、言ってねえよ。…なに、気にしてんの?」
「―― ち、違うぞ!」
「…ほんと、おまえ、可愛いやつだなあ」
「…うるさいのだよ」

なぜだ、私はどう見ても、怒っているのだ。 それなのに。
矢張は、嬉しそうに、髪をなで、頬にキスをしてくる。
困るのだよ。 好きなのだから。

本当は、呼び名など、なんでもいい。 何よりも、先ほど聞いた、彼なりの誓いが、嬉しすぎて。
だから、…たとえこのまま今日、抱かれてしまっても、いいと…思っている、のだから。

「…御剣。オレの上、乗って。」
「…?」
「あ、身体動かねーんだっけ、じゃあいいわ。…よっと」
「、お、おい、重いだろう、やめたまえ」
「平気へーき。 警備員なめんなよー?」

矢張は、私を反転させ、そのまま、己の顔のそばに、……なんなのだこの体勢は!!

「ローションねえから、我慢な」
「…ま、まて、何…を…!? うわっ!!」
「…、ん、…ちゅ、…」
「いやだやめろきたないだろうおいやはり!!」
「何、暴れんなよ。 舐めにくい」
「なめるな!!」
「シックスナインくらい、したことあんだろ?」
「あるわけがないだろう!!!」
「……、…じゃ、お初ってことでー、おまえホント、潔癖なあ。ま、可愛いからいいけど」
「…っ…う…あ、…っなぜ…こんな…」
「だって、オレ、おまえとセックスしたいもん」
「…う」

それを言われると、何も言えなくなる。
彼が、私を想ってくれている。
彼が、私を欲してくれている。
彼が、私を ――。

「おまえは、オレと、したくねえの?」

「…」

「答えろよ。じゃないと、できねえ」

卑怯な男だ。
理解をしているくせに。
あれだけ、私がキミを好きだと、欲しいと、言ったことを、もう、忘れたわけでもなかろうに。

言わせようとする。 ひどい男だ。

ずるい、――だが。

どうしようもなく、好き、なのだ。

答えの代わりに、目の前にある、ジッパーをおろした。

「…御剣、?」

その欲望に、ちいさく、口付ける。

「―― これが欲しい。」

「……ちょ、…っ…それ、反則、だろ…」




親愛なる矢張へ、この愛を捧げよう。

親愛なる矢張へ、いくらでも捧げよう。

それで、キミが喜ぶのなら。 笑うのならば。 嬉しいのならば。


「…矢張、」


キミの名を呼び、欲してみせよう。

それが、私なりの、愛なのだ。