目の前の男の名前が、わからなくなった。
そいつは、私の知っている男、ではない。小学校時代での、幼なじみでも、現在の友人でも、なんでもない。

もしも、そうだと言うのなら。
どうしてこやつは、こんな事を、しているのだろうか。


「…、なあ、もうちょっとさあ、足開いてくんねえ?」
「、……、もう、…やめ、たまえ…」
「うるせえよ。いいから、早くしろ」
「…頼むから、もう、このような、真似…は…」

「冷てえこと、言うじゃん……、おれら、三人、親友、…だろ?」


「…ぁ、……、やめ、…やは、…り、ぃ…」

どうして、このような事に、なってしまったのだろう、か。


『スカイブルー・カラーオレンジ




あまりに爽やかな秋空に、心も安らぐものだな、などと思いながら、私は帰途につこうとしていた。
本日の法廷も、苦しくも成歩堂の逆転無罪、という結果に終わったのだが、真実を知っていた私としては、
なかなか良い結果に向かったのではないか、と思う。無罪放免の相手を有罪にせねばならないのは、私にとってはもう、苦痛でしかなかった。
師匠が聴いていたならば、逆鱗に触れるような結果では、あるが。その師はもう、いない。

(あれから、もう…1年以上、経つのだな…)

マンションが見えてきた。

ん…?あれは。

見慣れた髪型を見つけ、視線をそちらに集中させる。あまり間違えることのない、友人がそこに立っていた。
珍しいこともある。連絡のメールは、入っていなかったはずだが。
車から降り、その方向へ歩んでいくと、よお、と手を上げて挨拶をされた。
それにあわせて、私も少しの笑顔を向ける。

「どうしたのだ矢張、また金か?」
「なんだよその言い方。おまえ、ホント失礼なぁ。おれ、おまえに金借りたこと、ねーっつうの!」
「わかっている。 冗談だ。聞き流したまえ」

矢張政志。 小学校時代を知る、友人。…一応、現在は成歩堂と三人で、親友と呼ばれる仲だ。
私にとって、心を少しだけ許せる、貴重な存在でもある。つまりは冗談をいえる間柄、というわけなのだ。

「でもちょっとなぁ、今日は頼みがあんだよー」
「なんだろうか。 キサマの事だ、どうせロクな願いではないのだろう。…女性がらみか?」
「ちっげえよ今回は。今はもう女なんて信じないって、言っただろ」
「嘘をつけ。あやめさんの面会に、何度行ったのだ、キサマは。 彼女は成歩堂に気があるのだぞ、現に交際をしていたわけであり、今さらキミの入る余地はない。そっとしておいてやれ」
「……ふうん。それで、御剣は成歩堂を、あきらめたわけね」


「……は…?」


なにを言っているのだ、こいつは。
私が、成歩堂を諦める? なんの冗談だ、笑えない。
私はヘテロだ。決して、ゲイではない。

「知ってんだぜぇ、ごまかさなくていいし。…なぁ、それは置いておいてよぉ、頼みってーのが…」
「イヤ、置いてはおけないであろう。私は、」
「いいからいいから。オレサマ差別とか苦手だし? しかも親友のおまえらがさあ、できてた事だって、わかってんだぜ」

言うに事欠いて、なんだそれは。
成歩堂は、マヨイくん、もしくはあやめさんと、これから幸せな家庭を築かんとしている男だ。
この前居酒屋で、三人で話したではないか。 おそらく将来はそうなっちゃうかなー、ぼく。えへへ。
という、甘ったれた面を、小突いていたのは私だぞ。この、私だ。
…それは、私にとって、喜ばしいことだった。ようやく、彼にとってネックになっていた出来事が、消えていったわけなのだから。

それを笑いながら、矢張、キサマは、見ていたではないか。

「いや、訂正していただこう。 私とて、これでも海外暮らしが長い。性別どうこうを言っているのではない。 私と、成歩堂は…かけがえのない…」

瞬間、だった。
マンションの壁に、したたか私は、背中をうちつけた。なんだ? なにが起きた?
ほんの少しの痛みに、眉を寄せる。
そんなことができたのは、目の前にいた親友以外の、何者でもないだろう。

「…だから、さぁ…うるせえって言ってんの。聞こえてねえのかよ、御剣」
「…? や、はり、…どうしたのだ、…き…キミは、このような真似をする人間ではない、だろ…」
「黙れよ、親友」
「そう言われて黙るものはいない、虫の居所が悪いのかもしれないが、それを私にぶつけるというのは、20も半ば折り返した年齢の人間がすることでは……っ」

速い。
首もとに、ヤツの顔があった。

「…なあ、御剣ぃ」
「……、」

「…はは、なんだよビビってんじゃねえよ。」
「……、…っ…、貴様、は…」
「これでもいろんなバイトしてきてっからさ。おまえよりは力もあるしよ、…あんま、逆らわない方が、いいぜぇ?」

なんと、恐ろしい笑顔だろうか。
瞳はまったく笑っていない。

「…、…望みはなんだ。…最後の餞別に、聴いてやろう」

悲しかった。
とても、とても、悲しい、そう、思う。

大事な友人、いや、親友であった。

そんな彼を、こんな形で失うのは、とてもつらい。
私は、何度、信じていた人に裏切られればよいのだろうか。
これは。

この感情だけは、いつまでたっても、慣れない。











けらけらと笑いながら、いつもと変わらず、私と肩をくみながら、矢張は、酒盛りを始めた。
いつもと変わらず、遠慮なく私の秘蔵のワインやウイスキーを開け、冷蔵庫からつまみを取り出し、飲食する。
それは、別に良いのだ。
先ほどのことは、夢でもみた、そう思いたい。


「ほんとバカだよなあ、おまえ。 女の次でいいってのかよ。」
「…待て、キミは少し勘違いをしている。そして、なぜ怒りの矛先が私に向いているのか、少々の説明をいただいても…」

「おまえが、好きだから以外に、なんかあんの?」

「、…ッ…、…」

この瞳は、冗談を言っているものではない。何度か見たことがある。
誰だったか。
そうだ、師匠のこんな目を私は日常的に見ていた。

ああ。

どうしてなのだろうか。

体がうまく、動かない。

「……、なあ、…おれにしとけって。…つうか、おれにしろよ」
「…。」

声が、でない。どうすればいい。
ああ、精神的に脆弱な私の弱面が、見え隠れしてしまう。
恐怖を抱く存在はもう、いなくなったはずなのだ。もうなににも、私を揺るがすことは、できない。できるはずも、ない。

それなのに。
どうして唯一心を許せる親友のひとりに、こんな真似をされなければならないのだろうか。
私は、どこで、間違ったのだろうか。


「…、わたし、は、成歩堂を、親ゆ」
「聴きたくねえって言ってんじゃん。 その名前。俺の前で、二度とだすな」
「…、…、っ…キミは、…私の、…友人のひとりだ。それ以上の感情はもてない。すまない」
「そんなことも、聴きたくねえ。 そんなのさぁ、ガキの頃からわかってるっての。 …御剣、おまえ、オレの事、嫌いだろ?」
「嫌いだとしたら、このように、時間があれば酒を飲む仲になっているはずがないだろう!!」

なぜなのか、私は、妙に矢張の言葉に、苦しくなっていた。
胸中に、ざわついた感情が支配しようと、渦巻いていく。なんだ、なんなのだ、この、感覚、は。
大切な友人を失う恐怖か? 裏切られることへの絶望か?
それとも。

「―― んー、そうね。 わかってる、それは、わかってんのよ。 でも正直どうよ、オマエ、オレみたいなタイプ、大嫌いなんじゃねえの?
軽薄で女好きで、いい加減で我侭で、人の話を聞かなくて、自分の欲望にだけ忠実な、人間。…どおよ?」

息をのんだ。矢張という人間は、オレサマ、ナイスガイだからよ!と、自負してばかりの友人だった。
成歩堂や私とは違い、ポジティブ思考で、というか、前向きにしか歩けないような人間の、はずだ。
真っ直ぐに、前だけを向き、後ろなど振り返る必要はないのだと、道すらない未来へ、平気で裸足で歩いていくような、男だ。

「……、…っ」
「なあ、御剣。なんでオマエ、泣いてんの? オレ、バカだからわかんねえんだけど。教えろよ、なぁ」
「…、キサマ、は、…、そんな人間では、ない。」
「じゃ、おまえはオレのこと、どう思ってんだっけ?」
「大切な、友人だ。 このように態度を翻されて、動揺を隠せないでいる。失いたくない。いやだ。そう、素直に思う。
私に好意を抱いていたと、仮定して、それでも、こんな暴挙に出るヤツは、知らない。知るはずも無い。…、矢張、なぜ、」

「…、オレと、友人になったキッカケなんて、忘れちまったクセに、よく言うぜ…」

少しだけ、私の知っている、親友の笑顔が垣間見れた。
頬に、キスをされた。 なぜか、イヤではなかった。
酒の席で言った戯言に対し、矢張は傷ついていたのか。 そうか。それもまた、原因なのだな。
どうしても、誤解を解かねばならない。 なぜか、私が成歩堂に好意を寄せている、という事に対し、矢張は嫉妬のあまり、あのように怒りをぶつけてきた、らしい。

恋愛事は、人生の中で一番の不得意科目であり、これだけは、どうあがいても、成績が上がるように、思えない。
昔から、愛というのがどのようなものなのか、よく、わからなかった。家族愛以外、私は知らなかった。
師から与えられたものは、そんなものではなく、強要される快楽で。私はそれに対し、ただ、目を瞑って、耐えるしかなかった。
尊敬する師。それに依存する私。それにすがることで、ようやく失った父への気持ちへ見切りをつけたように、己を誤魔化し、そうして、抱かれ続けた。

こんな、欠陥品のような、感情の欠如した人間の私に、愛情というのは、あまりにも眩しく、憧れることすら、できないものなのだ。

独り身が、楽なのだよ。 そう言った私を、成歩堂は、笑わなかった。
矢張、キミは、どう思ったのだろうか。

好きになった人間などいない。仕事、検事としての自分、師。 自分の在り方。 それだけで頭の中は、イッパイで、許容範囲量を超えていた。
それでも、いくら不得意でも、今、親友の感情をぞんざいに扱うことは、できない。

「すまなかった。謝罪しよう」
「…そうじゃねえよ。…そんなんじゃねえ」
「…、そう、か…」

目を閉じた。キスをされた。だが、何とも言いようのない感情が、むなしく、部屋を包み込んでいくようだった。
彼は何を望んでいるのだろうか。師のように、無理やり私を、抱くのだろうか。

人の感情が、恐ろしいのだ。 己が変わる様も。何もかもが、嫌なのだ。
私は、

「―― 汚らわしい身だぞ、矢張。 キサマは知らないだろうが、成歩堂ではない、私は、キサマのよく知らぬ者に、毎夜のように、抱かれ続けてきたのだよ」
「…ふうん。 だから?」

覚悟を決めて言った、つまりは、侮蔑の対象になってもかまわないと思い、ようやく喉から搾り出すように出した感情すら、彼には届かなかったようだ。
理解をしていないのだろうか。よく、わからない。

「触れるな、と言っている」
「いやだ、って、言ってんの」
「私たちは、いい友人では、ないのか」
「ぜんぜんねえよ。 一回もそんな事思ったことねえよ。成歩堂から奪うことしか、考えて、ねえよ」
「…、な、ぜ…、そのような悲しいことを、言うのだ…っ、矢張、私は、キミを、」
「――…、御剣よぉ、…ごめんなぁ…」

ぽたり、と、私の、もうすでに肌蹴られた胸元に、雫が落ちた。
泣いているのか。理解できない。それならばなぜ、このような行為をするのだろうか。

わからない、わからない。

こんなにも解りやすく、安心できるものはいないと、思っていたのに。

わから、ない。

もう、私にとっては、


目の前の男の名前が、わからなくなった。
そいつは、私の知っている男、ではない。小学校時代での、幼なじみでも、現在の友人でも、なんでもない。

もしも、そうだと言うのなら。
どうしてこやつは、こんな事を、しているのだろうか。


「…、なあ、もうちょっとさあ、足開いてくんねえ?」
「、……、もう、…やめ、たまえ…」
「うるせえよ。いいから、早くしろ」
「…頼むから、もう、このような、真似…は…」

「冷てえこと、言うじゃん……、おれら、三人、親友、…だろ?」


「…ぁ、……、やめ、…やは、…り、ぃ…」

どうして、このような事に、なってしまったのだろう、か。



どうして、
私は、こんなにも、ショックを受けているのか、悲しいのか。
対象が、成歩堂だったと仮定して、このように私は、絶望するだろうか。


己で、真実を告白したというのに、私は、矢張にだけは、こんな自分を知られたくなかった、そう、思っていたのだと、気づいてしまった。


「…たのむ、から、…やめてくれ、いやだ、キサマは、わたしにとって、こんな、…いや、なのだ…っ!!!」

ぐい、と、抱き寄せられた。
互いに半裸状態のために、今まで感じた事のない、親友の肌を、解らせられる。
熱いな。

「……、んで、そんなに、拒絶、すんだよ…っ」
「それ以外、どうしろと、言うのだ、今、まさに、私は、親友のひとりを無くそうとしているのだぞ、この絶望が、キサマにわかるか!!!」
「、…」

私の罵声に、少々慄いたのか、彼の手は、止まった。畳み掛けるように、私の言葉は止まらなかった。
「ダレだキサマは!私はこんなヤツは知らん、ずっと、成歩堂や私を計っていたのか!騙していたのか!ふざけるな、そんな事はあってはならないのだよ!バカモノ!!
へらへらと他人にへつらい、プライドなど微塵も無く、女性を追いかけている、子供のようなキサマを、…返せ!!!」

そこまで言って、ようやく、息をつく。

ああ、そうか。

なんと簡単なことだったのか。

これが。
この、感情が。

「御剣、おまえ…」
「っ…、キサマには、失っても、失っても、…いくらでも代わりの親友も恋人も、いるのだろう?
私、も、その1人で、ほんの気まぐれで、こんな事を、しているのだろう、…っ…、それが、嫌、だと、言っている、のだ…」
「…、」
「……、…っ」

口付けられた。舌が喉の奥まで、届きそうだった。押し倒されているからだ。
胸を叩いたが、それは、数分止むことはなかった。
目頭が、また、熱くなる。
それを舌で追われた。矢張は何も言わない。
ただ、その先をする気配はなく、頭を、何度か撫でられた。

「…、も、しねえから。…泣くなよ」
「……、っ…ふ、…う、…ぅぅ…」
「ごめん…悪かったもうしねえ、おまえが、そんな風にオレの事思ってるなんて、知らなかったしよ。…なんつうか、いつも、見下したようにしてただけじゃん…」
「っく、ひ、っく…、っく、う、うう、…はり、やはり、…矢張、…っ」

「なあ…、…おまえ、おれのこと、すきなの…?」


震えた声だった。始終強気だった男が、とても、小さく見えた。
私は。

今、自分の中で気づかされたものを、彼にぶつけてしまっていいのか、ほんの少しだけ迷った。

そうして、結局は。

瞼を、己の手のひらで覆い、ちいさく、うなづいた。

1秒後には後悔するであろう事を、思いながら。それでも確かに、彼には伝わってしまったことであろう。

ああ、とても、冗談にしてしまいたいような、夜だ。

私から、この関係を崩してしまうことになろうとは。
私にとって、この、成歩堂と、矢張と、自分と、という3人の親友、という関係が、どれだけ貴重で大切でかけがえのないものなのか。
わかりきっていたのに、認めてすら、いたのに。

壊して、しまった。

もう、直らない。 直らない、のだ。

「…っく、…ひっく、…」

子供のように泣いた。ただ、ひたすら、怖くて、泣いていた。
こんなように泣いた姿を見たことがあるのは、父と、師と、メイ、だけだ。

「―― 御剣、オレ、なあ、おまえの事、好き、になって、…ごめん、なあ…?」

まるで全てを見透かされているようだった。
子供がただ成長しただけの、そんなような男だと、思っていたものの前で、私は、それ以上に子供のように、泣き続けていた。

「…親友が、いいんだろ。 壊れないもんな。 そうだよな、悪かった、もう言わねえから。 だから、そんな風に泣くなよ…」
「、…っう、…ぅ、…」

「御剣。御剣、…大丈夫だからよ、成歩堂もオレも、おまえの傍にいっから。 側にいなくてもよ、ちゃんとずっと親友だから、よ」

「矢張、…、」

「頼むよ。オレ、心底おまえに惚れてんの。…泣き顔なんて、ホントは見たく、ねえんだよ…」

「…」


己の感情のコントロールは、大得意だった。冷静でいなければ、判断をあやまるような、愚かな真似などしない、そんな検事になれと、師には言われ続けていたのだから。
そうして、人間味を削ぎ落とし、私は、検事御剣怜侍として、生きてきた。

「痛えか、さっき、悪かった、…ほんと、ごめん、なぁ…?」

胸を摩られた。ああ、そういえば突き飛ばされたな、と、ぼんやりと思う。
視界がとても不自由だ。よく、顔が見えない。涙のせいだ。

だから、手を伸ばし、触れた。

「痛いのだよ」

「ん、悪かった、オレ、」


「こころが痛い。心臓が、軋む様に痛いのだ。直せ、矢張」

自分でも少々、感情が可笑しな方向へ向かっているのだ、と自覚している、むしろわざとそうしているのだろうな、と自分を推測した。
矢張は、どうしたらいいのかわからない、という顔をしている。

「…帰れって、こと?」

「……、汚い身体を、綺麗にしろと、言っている」

「――…」

「キサマならば、できるだろう」

「…、けど、おまえ、さっき、だって、よう…?」

「……、…、嘘だ、 …今ならば、戻れるかもしれない、からな。…、もう、二人で会うことは、よそう。
―― それから、…、…」

胸の上に置かれた、自分よりも随分と日に当たった肌に、手を重ねた。
びくり、と、過剰な反応を、返された。

「成歩堂を好きになったことはない。本当だ。信じてほしい。 キミが、私ならばともかく、彼を疑ったりすることだけは、して欲しくないのだよ」


「…ん、…わかった」



離れていく腕を、見送った。


そうだ。これでよかったのだ。

海外へいく準備でも、進めようか。しばらくは、彼の顔を見ないほうが、いいだろう。
世界の空を見て回れば、こんなちっぽけな人間の、ささいな悩みなど、どこかへ消えてしまうはずだ。

こんな、ちいさな恋心など。



「―― 、御剣、抱かせてくれ」

「…っ?」

「だめか。だめならそう、言えよ」

「、ちが、矢張、聞いただろう、…わたしは、自分の感情をキミに押し付けるような、最低な人間であり、それか、」

「そんな事聞いて、ねえって。 なあ、だめなのか」

「…っ…、」

「―― するよ? オレサマ、プライドなんてねえ、勝手な人間だし、ワガママな人間だし、オンナのケツ追いかけてばっかの、欲望に忠実なニンゲン、ってヤツからよぉー」

ぐしゃり、と、髪を撫でられてた。

私の好きな笑顔が、そこにあった。


「…なあ、御剣、…気持ちよく、なんねえ?」
「――、…っ、…そんな感情は、知らないのだよ」
「ん、そっか。…じゃあ、おとなしくしてろ…、終わらせてやっからさ、色々と。」


うなづいた。

ああ、そうか。


これを望んでいたのか、私は。


…空が、割れていく。