キャンディキャラメル。



真夜中3時の事だった。ぼくはいつものように御剣のベッドに潜り込んで、ぎゅう、と抱き枕みたいにして恋人を抱き寄せて眠っていた。
でも、その枕が動いて、離れていく感覚に、目を覚ます。

「…ん、みつるぎぃ…?」

「…」

たまに、こんな事がある。ここ一ヶ月はほとんど御剣の家に入り浸ってたぼくだから、気づいたこと。
御剣は、ぼうっとした様子で何かを考え込んでいるみたいで、5分くらいすると、ベッドから抜け出す。そのままシャワーを浴びているみたいだ。 
その、数時間前には、ちゃんと一緒に入ったっていうのに。
基本的にすることしてから、シャワーを浴びているから、もう一度入る意味が、わからない。
なんでなんだろう。と、すごく気になっていたから、気づかれない程度の時間をあけて、ぼくは御剣の後を追っていく。

水音が聞こえる。

なんだか悪いことをしているみたいだな。
ぼくも、汗かいちゃったから、入ろうと思って、なんて笑いながらドアをあけてしまおうか。
そんな季節じゃないから、わざとらしいよなあ。
どうしよう、かな。

ふいに、きゅ、とシャワーコックをひねる音が聞こえて。
かわりに、御剣が、


「…みつるぎ、なんで泣いてるの?」

…怖くなって、ノックをした。

「、な、…成歩堂…、…ないてなど、いないのだよ、なにを言っているのだ、貴様は」
「うそだよ、声がふるえてる。なんで、どうして、聴かせて御剣。ぼくには、このぼくだけには、なんでも言ってよ、御剣」

「……、…本当に、なんでもないのだよ」
「ぼくじゃ、おまえの役にたてない、かな」
「そのようなことはない…、ただ、これは、私自身の問題なのだ。キミは、もう眠りたまえ」
「……じゃあ、聴かせてくれなくてもいいから、そっちに行ってもいい?」
「…成歩堂」
「そばにいたいよ。大事な恋人が泣いてるのに、放って眠るなんて、ぼくにはできない」
「……、いや、…そこにいたまえ。もう、そちらに行く。先にベッドルームへ…」

がちゃり、とドアをあけた。
こんな風に、簡単に御剣の心のロックも、外れたらいいのに。
外せない、いくらがんばっても、鍵がかかっていて、手じゃ、引きちぎれないんだ。

「御剣」

ぎゅう、と抱きしめた。
やっぱり泣いてた。目が赤い。

「まったくキミは…、お気に入りではなかったのか、その趣味の悪いパジャマは」
「うん。いいよ、そんなの、いいんだ」
「……、っふ…、う、…う…」
「うん。御剣、…大丈夫だよ」

なんにもわからない。なにが大丈夫で、大丈夫じゃないのか。
無理矢理聴いてやる勇気もなくて。傷つける瞬間はどこなのか、わからなくて。
きっとぼくは、おまえに必要とされてない自分を認めるのが、こわくって。
ぼくがおまえを必要だから、そばにいる。



ひとしきり御剣が泣いたあと、ぼくは髪をなでて、瞼に口づけた。
「ねえ、御剣、眠れないんだろ、いいものあげるよ」
「…なんだろうか」
シャワールームからでて、御剣の体と自分を拭き終えて、寝室に戻って、自分の鞄から、ひとつ、それを取り出した。
そうしてそれを、御剣の掌へおく。

「キャラメル味だよ」
「…いただこう」
「あ、まってまって御剣。一緒に食べよう」
「…む?」

ぼくはもうひとつ、包装をあけて、自分の口に含んだ。
安眠効果、とか書いてあるけど、どうせ効果なんてたかがしれてるんだろう。
でも、今はそれっくらいの理由がちょうどいい。

「キスしよ、御剣」
「………、キミは、あきれた…、男だな」
「いいじゃん、一回やって、みたかったんだよねー」
「…、まあ、いいとしよう」

御剣は、少しだけ苦笑しながら、ぼくと口を合わせてくれる。
こんなキャンディなんてなくても、御剣とのキスは、甘くとろけるくらいなんだけど。
今はね、これっくらいが、ちょうどいいんだ。

髪をなでて、頬にふれていく。
ああ、ちょっとだけ瞼が膨れてる。泣いた後だからだな。
抱き寄せて、そのままベッドに、そっと御剣と一緒に横になる。
御剣は甘いものが好きだから、おいしそうに舌で味わってるみたいだった。
ぼくは、キスがしたいだけなんだけど。

「…、ん、…ぅ…」


ねえ、御剣。
もうちょっと、未来の話でもいいんだ。

もうちょっと、優しい時間が流れている時でいいんだ。

ぼくが、おまえのそばにいられたなら、いられるなら。
いても、いいのなら。

「…、御剣、…おいしい?」

「…うム。…甘くて、落ち着くな」

「よかった」

なめ終わったけど、そのままぼくは、御剣の頬に舌をはわせていった。

「成歩堂、くすぐったいのだが」
「…御剣、甘いね」
「違うぞ成歩堂、甘味なのは、キャンディであって、私ではない」

「ううん、御剣が甘いんだよ」

「…、…」

瞳を見つめてると、御剣は、押し倒してるぼくの頬に、手をのばしてきた。

「…、もっと、食べる?」

キャンディはまだあるけど、もう必要ないかな。
そんな事をささやきながら、ぼくは御剣にまた、キスを求めた。

きっとこれから、ぼくらは。

ゆっくりと、眠りにつくまで、繰り返しキスをする。