とろりと垂らしたそれを口に含めば、苦いはずの蜜と混ざりあって、甘くなる。



『ハニー・パズル』



「…ぁ、…なるほ、どう…、ん、…ぅう…」
「御剣…、久しぶりだよね、セックスするの。…たまってただろ?」

「…ん、あ、あ、…っ…、うう…」
「みぬきがね。ホットケーキを初めて作ってくれたんだ。
メープルシロップを切らしていたから、買ってこようとしたら、ぼく、間違って蜂蜜を買ってきちゃってさ。
それをかけて食べたんだけど。大きい瓶のを買ってきたから、あまっちゃっててさ」

「…ひ、…っ…あ、…ん、」

一方通行な会話。快感に従順な御剣怜侍は、ただ気持ちよく喘いでいるだけ。
ぼくはそんな恋人に、楽しそうに、質問を続ける。

「だからさ。もったいないだろ。」

にこりと笑って、ぼくはまた指先に蜂蜜をべとりと塗り付ける。
そうしてその光ったそれを、御剣の後ろに入れていく。
ひくん、と御剣の顎が上へ跳ねて。 蜂蜜よりもとろけてるような甘い瞳が、ぼくを見る。

視線をあわせて笑ってあげる。
ぼくはおまえの恋人だからね。
いつだって、気持ちよくさせる義務がある。 そうして、権利だって持ってるんだよ。

「なる、ほ、どう…、っ…、べたべた、する…」
「後で、一緒にシャワー浴びるから…いいだろ?」
「…しか、し…、…っん、…あ、…」

まだそんなに慣らせていないうちに、3種類の指をねじ込めば、もう御剣は何も言えなくなる。

「…っうぁ!! あ、…っ…」
「ほら、…こんなに、…感じてるくせに…」
「ふ…っ…、ぁああ…、あ、…あ、ん、…」
「気持ちいいんでしょ、…もっと、してほしいって、こっちは言ってるじゃないか」

ぐち、と音をたてて奥へ奥へと指をすべらせていく。
御剣の口から見える赤い舌が、なんだかとても淫猥だった。
はしたなく見える筈なのに、その逆の感情しか、沸いてこない。ぼくはおまえの中毒者だから。
ああ、早くおまえを味わいたい。 蜂蜜なんて、本当はいらないんだ。
でもだめだ。もうちょっと。
もう少し慣らしてからじゃないと、御剣が傷ついてしまうから。

「…あ、…っ…、なる、ほど、…っ」
「ここだろ?」
「うあ! あ、っ…うあ、…んんん、…」
「気持ちいい?」

こくこく、と何度も頷くおまえは、本当にやっかいなくらいにぼくを支配してる。
おまえの顎ひとつで、きっとぼくはどんな犯罪にも手を染めてしまうだろう。
おまえが幸せになれるのなら、どんなことだって簡単にやり遂げてしまうよ。

これは、あまりにも盲目的な愛だ。

「成歩堂、…悲しそうな目を、して、いる…」
「そんなことないよ。 おまえを抱いてる瞬間が、ぼくの至福の時なんだから」
「ならば、くればいい。 もう、十分に解された。 キミを、…ここに…」
「っ…ほんとおまえは、いつだってぼくを、煽るんだよなあ」

そんな風に誘うなんてさ。
悪い遊びを覚えたね、御剣。
そればぼくにしか通用しない。 させてもいけない。

ぐい、と両足を抱え上げて、猛りを、熱を、わざとらしいくらいに乱暴にねじ込めば、御剣の両目は少し見開かれて、衝撃にびくびくと体が拒絶してくる。

ぼくは意地悪だから。そんなおまえを楽しんで見てるよ。
それくらいいいだろ。おまえはぼくをここまで、

―― 堕としたんだから。


「一生、そうやってさ、ぼくを振り回して生きていく気かい、御剣?」
「あ、あ、…ぁ、…」
「…悲鳴を上げたいのは、こっちなんだよね。 息ができないくらいなのは、こっちなんだよ、御剣」

「…あ…っ…、なる、ほどう…」
「たまにはさ、龍一って呼んでよ」

御剣は、首を横にふる。

「なんで?」

いらいらとした気持ちのまま、再奥を目指して、容赦なく腰をつき入れた。

「っう、ああ!!」
「だから、痛いのは、こっちなんだって。 そう、しめつけるなよ御剣」

「あ、…す、まな、…」

足を動かしてるけど、そんなんじゃ緩まないよ。
…ばかだな、御剣。
ちゅ、と頬にくちづける。

「ごめんね。 嘘だよ、…ゆっくりするから…」
「…あ、…ぁ」

萎えてきた御剣の欲望を撫でさする。
少しずつそれは上へ向いてきて、なんとかちゃんとしたセックスになりそうだ。

「御剣、痛くない?」
「…っ…あ、平気、だ、――っ…あ、…っあ、成歩堂、…っ!!」

力の抜けた身体を抱き寄せる。
最近のぼくは、御剣への執着心が強まっていくばかりだ。
なんでなんだろう。
ずっと、御剣はぼくだけのもので、いてくれるのに。

たまにぼくは自分が怖くなる。
同時に、どうしようもなくおまえが怖くなるよ。

優しくしたいのに。甘えてほしいのに。
ぼくがキミそうできなくても。
御剣は、ただ、困ったように笑うだけなんだ。
怒りすら、ぼくには向けてくれない。

「…成歩堂…」
「…うん、…ごめん」

「キミから、呼んではくれないか。」
「え…」

「名前のことだ」
「……」

それなのに、そんな風にぼくを振り回すだけ、振り回して。
結局ぼくは、キミの所に、戻ってきてしまう。

だって、そこに、御剣がいるから。

「…怜侍」

綺麗な名前だと思う。 最初に聞いた時に、そう思った覚えがある。

「…うム」

「…なんか、恥ずかしいかもしれないなあ」

「…そうだろう?」

「ずるいよ御剣、…おまえも言ってよ」

御剣は。
やっぱりぼくには到底わからないような。そんな存在なんだ。
解ろうとして、傍にずっといたぼくでも。やっぱり難しくて解けないパズルみたいで。
でも、それでも、完成したものが、こんなにも綺麗だって、わかっているから、手放せない。

きっと、ぼくの手じゃ一生、完成しない。

「……、りゅ、龍一」

「御剣、顔、むちゃくちゃ赤いよ」

「…だ、だから言ったのだ、いやなのだと…」

「今さら、照れる仲じゃないだろ?」

「今さら、呼び方を変えろと言うキミが、厄介なのだよ」

「じゃあ、なんでもいいから、ぼくの事、呼んでて」

言いながら、また動きを再開する。まだ、ぼくは達してないからね。
御剣は、ぼくの肩に腕を絡めて、頬をすりよせてきた。

「…成歩堂…っあ…」
「御剣…、…御剣、…愛してる…、大好きだよ…」
「…っ言わなくても、わかって…いる、…」

御剣は、少しだけ笑ったような声で言う。

「…でも、聞いてて」
「―― それも、解っているのだよ。」

ほんとに困った関係だね、ぼくらは。
それでも、きっとずっと、こんな感じなんだろうなあ。
べたべたになって、汚れて、でも、御剣はぼくを見放さないから。
そう、思わせてくれるから。
頬を舐めた。 甘くて、苦くて、よくわからないや。
そのまま貪るように御剣を味わって、息すらつかせないくらい、御剣を翻弄していく。
聞きなれた、甘ったるい声が聞こえてくるまで。

おまえは、ぼくを望んでくれてる?

怖くて聞けない。きっと一生聞けない。

「…ぁ、ぁあ、成歩堂、…なる、…っぁ、う、あ、――…」
「…うん、…っ…御剣、…」


その代わり、ぼくはおまえの名前を繰り返し呼ぶから。

おまえはそれに答えててよ。

ずっとずっと、答えててよ。


それだけが、

ぼくがおまえの愛を確かめられる、唯一の手段なんだ。