正反対求愛論。 後編



この腕いっぱいに、こいつを抱きしめてから。
胸ん中にあるもんも、心ん中にあるもんも、頭ん中にあるもんも。
ぜんぶぜんぶぜんぶ、こいつん中にそそぎ込んでやろうと思ったんだよな。

理性とか本能とか、よくわかんねえから。
ただ、愛しいんだって気持ちを素直にぶつけてって。

気がついたら、御剣はふわりと、オレにはきっと一生見せる予定もなかったような。
そんな笑顔向けてきて、気ぃ失うように眠って、
そりゃあもう安心しきった顔で。

他人と自分に、線引くのが大得意な、御剣怜侍は。
身体全部オレにあずけて、寄りかかって、寝てんだよな。

ちらりと、時計に目をやれば、0時過ぎくらいだった。
まあ、余裕で、4時間半以上は、寝かせられるんじゃねえかな。

絶対二週間も会えねえとか、耐えらんねえし。
言葉のあやとか、関係ねえし。

「…御剣…」

手に入れたんだな。オレ。こいつのこと、全部。

やわらかい髪に触れてなでて。

ちゃんと、愛せたか、オレは。
なんて思いながら、何度も何度も、なでる。

「……ん…」
「…いけね。起こしたら悪いよな」

手をとめて、そのままぼうっと寝顔を眺める。
…御剣。
たまらなくなって、口づけてると、さすがに舌を入れたとこで、こいつは目をさました。

「…、…寝込みをおそうな、馬鹿者…」
「わり…」
「……、その…、…満足した、だろうか?」

ああ、そういえばさっきから、こいつ変なこと気にしてたっけ。
だから言ってんじゃん。

「オレさあ、おまえがオレのこと好きだっつった時点で、満足してんだぜ?
弁護士の成歩堂でも、周りにいる検事のきれいなねえチャンでもなくってよお、
こんな俺様選んでくれた訳じゃん、おまえ」

「何を言いたいのだ貴様は…そんなものは、関係ないだろう」
「ん、わかってる。おまえそーゆーとこ、一般的な解釈しねえもんな」

「矢張政志は私にとって、自慢できる親友であるのだから。
いつもの貴様らしくいればいい。私の隣には、君がいて、それが私にとっての幸せなのだから」

ホント、当たり前みたいに言うから。
うれしいんだかなんだか、こっちはわからなくなるんだよなぁ。

「じゃあ、今、幸せなわけだ、おまえ」

「…う、うむ、まあ、そうなると言えばそうだ、な」

「そうなるわけだ」

「だ、だからそうだと言っているのだ! 繰り返さずともわかるだろう、こ、こうして、肌を寄せあって、いるのだから…」

「…だよなあ」

あー、くそ、やっぱ可愛い。
なんでこんな可愛いんだ、こいつ。

やべえ、だからさっさと寝てもらわねえと、また抱きたくなっちまうんだって。
ほんと、そーゆーのばっかり大得意な俺様だから。

ぐい、と腕で引き寄せて、抱きしめる。
あー、いいにおい。なに使ってんだろ。女もんのシャンプーか?

こいつだけの、におい。

「…、おい、…や、矢張、…こ、困る…のだが」
「えー? あー、うん、気にすんな。」

しょうがねえだろ、まだまだやりたりねえんだから。
わざと下半身を当ててやると、御剣は、困惑した声を出した。

「気にするなというほうが、無理だ…」
「じゃあよお…おまえもう、今日休んじゃえよー」
「っば、ばかを言うな! 午後からは、検事局に…それに、成歩堂がいるかもし…」

「ふーん、へえー、やっぱオレより成歩堂?」

「なっ…そんなはずはないだろう!!」

「え、…お、おい…?」

「……、君の、そばが…、あ、安心できるのだよ…」

「…………うわ、凶悪…」

理解したまえ、と言いながら、らしくもなく御剣は俺に抱きついてきて。
冗談だろ、なんだよこれ。
嘘だって言えよ。

そうじゃなきゃもう、本当、一生こいつを束縛しちまいそうで。

そんなん俺じゃねえし、俺らしくねえし。

だってそうだろ。

来るもの拒まず去るもの追わずが信条の、この人生で。

たったひとつだけ、逃がしたくねえなんて。

「…あ…、矢張…」
「じゃあ、ここにいろ」
「………」
「いろって。」
「………う…、…うム」

「え、いるのかよ!?」

「っき、貴様がいろと言ったのではないか!!」

「押しに弱いんだもんな、おまえ」

オレにも成歩堂にも、押されて押されて、
おまえが逃げようとしたって、ふたりそろって、捕まえにいって。

しょうがねえだろ。
そうするしか、なかった。

こいつのこと、一番わかってんのが成歩堂で。
たぶん次がオレ。

二番手上等、気にしない。

オレはこいつを好きで。
こいつもオレがいいって言うんだから。

「…その、…上層部には、連絡を入れておく。 …デスクワークもたまっているのだよ」

「さんきゅ、こーゆーのは、今日だけにすっから」

わがまま言わせてくれ、
離したく、ねえんだよ。


しょうがないだろ。

求めて
求めて

愛して
愛して

本気で


こいつしかいらねえって、気づいちまったんだから。
だから居場所はどこでもいい。

どこでもいいから手ぇ伸ばして。

こいつが空飛んでんなら、仰いで手ぇ振って。

最後に、御剣がオレの方向いて笑えばいいじゃん。


それで、いいんじゃねえか?


なあ、そうだろ御剣。


「…ほんと、すげえ、…好き」


だからここにいてくれ。

今日だけでもいいから。

ここを選んでてくれよ。





「…や、やはり…、その、このような行為をするのは今日だけなのだろうか…? やはり満足をして…」

「だからそーゆー意味じゃねえー…」


ああ、選んでるから、

おまえ、
ここにいんのか。